ああ……

 ああ……、で、言葉が詰まる。

 本作のどこに魅力を感じるかは、それこそ読者によるのだが、およそ昭和の序盤から戦後まもなくくらいであろう時分を背景とした設定がまず私の気を惹いた。何となれば、私は昭和四十七年生まれで、自分の親や祖父に当たる世代からとぎれとぎれにそうした時分の話を聞いてきたからである。

 そんな折に、昭和どころか江戸の風味を……苦い形で……遺した家を、主人公達の『水槽』とするのは当然の考察ではある。が、ここでは少しひねって、『井戸』としたい。水が湧きはするが、人手をかけない限り水位は上がらず、縁から溢れることもない。そして、水の代わりに血という名の思索が湧く。

 そんな代物は、文字にし作品にした瞬間、飛んでいくか燃えてしまうかしか仕方ないではないか。

 読むたびにしみじみ思う。夢見里先生の筆致は、常に溢れ常に焼いている。

 必読本作。

 

 

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