文章が詩のように美しく感じられる作品です。
詩がつながって物語をつくりだしているのか、物語が詩のような美しい文章のつながりで語られているのか、どちらにしても心地よくきれいな文章が静かに流れていきます。
そこで語られるのはフウチという少年の切ない恋の物語。そして彼が過ごす美しい土地での出来事。彼が思いを寄せる柚子さん、そのダンナさんで兄のようなクウヘンさん、フウチに思いを寄せる粉雪さん。みんなが優しい登場人物で、フウチを暖かく包んでいます。それでもフウチにはあきらめきれない恋心があるわけで……
そして彼の過ごす日常世界の描写が物語に華を添えます。身の回りにあふれているようなもの、誰もが知っている時間、そこに光が当たるとき魔法のように日常が輝きだします。この表現がまたすばらしいのです。
文章を追いかけることに幸せを感じる物語。
そう言う作品はなかなかありませんよ。
心も身体もどんどん変わっていく、そんな微妙な時代の少年の心をきめ細やかに綴った物語。
この物語の舞台である森での日々は、あくまでも静かに淡々と紡がれます。
その情景は、作者という存在を介在しないかのように——まるで、何処かの森のある冬と、そこに住む人たちの日々をまるごと描き写したかのように…全てのもののひそやかな息遣いが聞こえてくるほどの、透明に澄んだ世界が広がっています。
創作された世界であることを感じさせない自然な空気と、その世界へ引き込む言葉達の力。気がつけば、自分もその情景の中に立っている——そんな感覚に驚かされます。
少年の心のふわふわとした不安定さ。揺れ動くその思いは、選び抜かれた言葉によって形を与えられ、読む者の心へ届けられます。時に優しく、時には突き刺さるように。
少年が、成長に従い、少しずつ「男」という性を持ち始める。真っ白から、ごく僅かな色合いを帯び始める——そのグラデーションの美しさも見事です。
ここへいくら書いても書ききれない、この物語の魅力に溢れた空気。ぜひ多くの方に、この空気を味わってほしい。この森を訪れてほしい。そんな作品です。
新しい季節の物語、楽しみにしています。
そこに優しい言葉がある
昔は葉っぱにメッセージを書いて、気持ちを伝えたんだって
そんな「言の葉」を集めたら『玻璃の音*書房』ができたんだ
・・・って、私はそう思う
透き通って手が届きそうなのに、届かない
柔らかそうに見えて、それは硬く研ぎ澄まされてる
暖かい春の光のようだけど、触れると氷みたいに冷たい
優しい色合いだけど、何も言ってはくれない
硝子は全てを透かしているようで実はそうでもない
まっすぐ出ていくこともあれば
曲がっていくこともあって
跳ね返ってもどってくることもある
人を見ているようで、自分を見てる
それを彼が理解できるのは
どれくらい先なのだろう
主人公の少年「ぼく(フウチ)」をはじめ、「玻璃の音*書房」を切り盛りする「柚子(ゆず)」さんに、「空辺(くうへん)」さん、そして書房の庭に住むかわいい「コリス(小さなリス)」……。
登場人物や動物には、どこか自然の精を宿すようで、ぼくや書房での出来事を中心に、散文詩的な文章にゆったりとやさしい時間が紡がれていきます。特に、主人公のぼくは、14才の学生なのですが、まるで森の精のような木洩れ日が感じられ、不思議で心地よい少年です。
一話一話の最後に紹介される本や音楽、おさかなさん(?)は、物語のモチーフとなるもので、その発見には、探究心と好奇心をくすぶられること間違いなし!
ちょっと一息つきたい……カフェのおともにぴったりな物語です。