第18話 黒い煙
遠くからクマゲラの鳴き声が聞こえる。このところ、鬼ノ子村は暑い日が続き、今朝も “雨降りじゃま ”の岩肌は乾いていた。火葬船桟橋に村民たちが集まって来た。これから佐藤巌が荼毘に付されるところである。鯨幕が火葬船を送る参列者を囲むように張られている中に、良三と俊介の姿もあった。和尚を待つ地元民の間では、いつものように死者の噂話のヒソめきが舞っていた。
「一昨日の夜に、巌が自殺したんだどな」
「首吊ってるどご見つかったえたでば」
「どごで見つかった?」
「松森グランドに抜ける裏道の途中だよ」
「あえ~、おっかねふて、もうそご通れねな」
「おど(父親)が見つけだど」
「おどが? あえ~は、息子の首吊り見つけでは~なんだってまだ気の毒だもんだしな」
「息子の首吊り見で腰抜がしてションベン漏らして…」
「そういうごどだば喋ねでおいだほうがえべ」
「それもそんだな」
「ほんとに自殺がえ?」
「警察が自殺に間違えねって」
「あえーッ、あの、じれ(狡賢い)わらしがまだ、なして自殺ひねばならねがったべな」
「自殺するべが、あのクソわらし?」
「死んだ人ば悪ぐ言わねほうええってねが? 罰当るべ」
「罰当ったえたば巌のほうだべ」
「ほんとは殺されだえってねべが?」
「あえーッ、殺されだたて誰に?」
「巌だもの、殺してえど思ってる人だば、しこたま居るべもの」
「思ってる人だば居るべども、実際にやる人間はえねべな」
「居ねな」
「やっぱし自殺だべが」
「その辺が、どしても腑に落ぢねものな」
和尚が入場して席に着くと、会場が静まった。火葬船・船長の高堰道英から、いつものように開式の言葉が発せられた。
「只今より、故・佐藤巌殿の火葬の儀を執り行います」
火葬船の鐘が鳴った。
「黙祷!」
クマゲラの鳴き声だけが空に響いている。
「黙祷を終わります」
和尚の読経が始まった。会場の片隅では、俊介とシカリの良三が小声で話をしていた。
「…息子さんを殺した仇を、目の前にして逃げらえだどなれば、悔しいべものな」
「…どこへ行ったのか、見失ってしまって…かといって警察に相談するのも…」
俊介はやつれていた。一睡もできなかったようだ。
「奥さんも、獲物も、すぐ近ぐさ居る」
「すぐ近くに!」
「その獲物が奥さんの命を狙って近づいだどしても、その周囲にはマタギ衆が潜んでいます。奥さんに手出しはさひね」
「命を狙って! まさかはる子は!」
良三は火葬船を指した。
「はる子が船に!」
良三は立ち上がろうとする俊介を制した。
「しかしこのままだと…」
「・・・・・」
「私はどうすれば…」
「私ど、こごに居でください…信じでけれ、黒川さん! 奥さんの無事は、マタギ衆が絶対に守ってけるがら、猟の邪魔はしねでけれ。包囲は済んだ。あどはマタギ衆が獲物を静がに “仕留める ”ばりだ」
「 “仕留める ”…!」
「奥さんの決意は並大抵ではねしよ。あんだが心配してる事は百も承知だしよ。奥さんは命を賭けだんだし。したども、奥さんの命は守る。奥さんの手も絶対に汚さひね」
「はる子…」
「命懸けで追ってった奥さんを信じで、そして我々も信じでください」
「・・・・・」
「も少し…も少しだがら、黒川さん!」
「はい!」
俊介は、声にならない声で精一杯の返事をした。読経が終わった。
「黙祷を終わります。これより、供養の献杯を致しますので、お酒を配ります」
婦人部のテルばあさんら遠い昔の秋田おばこらが、いつものようにひとりひとりにミニカップ酒を配り始めた。笠原と成田もいつものようにテルばあさんからカップ酒を多めにもらって、嬉しそうに恐縮していた。
「行き渡りましたでしょうか?」
世話役が恭しく船長に合図を送った。
「では、ご冥福をお祈り致しまして、献杯!」
一同が儀礼的に一口だけ付けた。松橋金治と成田は並んでうまそうに飲み乾した。
「慣れで来たな…よし!」
会場のスピーカーから微雑音ながら厳かな音楽が流れてきた。
「それでは関係者の方々は乗船して下さい」
佐藤喜久治とその妻に続いて、数人の親族が乗船していった。鐘が鳴り、火葬船はゆっくりと岸を離れて行った。船が港を離れていく光景は、いつ見ても物悲しいものがある。過疎の地元集落でも殆んどの住民が、この船で縁者を送っていた。送るたびに思い出すのだろう。婦人部の誰からともなくすすり泣く声が漏れた。俊介は混乱しながら、妻の死の予想を打ち消すのに必死だった。
「黒川さん…」
俊介の隣に千恵子が座った。
「智弘さんが守ってくれます」
俊介は火葬船に目をやった。はる子の傍には智弘が付いてくれている…千恵子の一言で呼吸を忘れていることに気付いた。
火葬船から少し離れた鬼ノ子鉄橋の下に、一艘の小舟が浮んでいた。熊蔵の舟だ。近付く火葬船に進路を譲って待っていた。火葬船はゆっくりと熊蔵の小舟の脇を通り過ぎ、いつもの場所に停船して錨を降ろした。暫くして、火葬船の船尾の水面から映二の頭が浮かんだ。
火葬船の遺族待合室には佐藤喜久治らが座っていた。係員の態で男が入って来て喜久治に近付いた。
「佐藤さん、ちょっと宜しいですか?」
「・・・・・!」
佐藤県議は脇腹にナイフを突き付けられていた。言われるままに待合室を出た。二人を追って飛び出そうとしたはる子が、後ろから口を塞がれて引き戻された。
「奥さん、まだですよ」
そう囁いて弘は、はる子の口から手を放した。
「・・・!」
「旦那さん、心配してるがら、こごは我々に任ひで一旦帰られたほうが…」
「帰りません」
船長の高堰は、深夜、火葬船に忍び込む新庄を目撃し、その後を付けてきたはる子にも気付いて驚いた。急いで良三に連絡しようと携帯フォンを持つと、いきなりその手を掴まれた。良三だった。
「巻狩り始める…集合掛げろ」
一方の新庄は偽県知事らや桜庭らに連絡が取れなくなって焦っていた。カマスの工作員の習性で、危険を察知し、取り敢えず口封じの対象を佐藤県議に絞っていた。
火葬操作室のドアが乱暴に開けられ、佐藤県議を後ろ手に新庄が入って来た。
「火葬の追加だ」
「た、助けでけれ、茂!」
「追加だしな、ええですよ」
「茂!」
「話が分かるな…そうだ、こいつを追加だ」
「違うしべ」
「何が違う!」
「追加は…」
平川は新庄を指差した。
「あんだ…だしべ」
「なんだと!」
「桜庭の犬っころに成り下がってそのじゃま (ざま)だが、新庄!」
後ろ手のまま佐藤県議が驚いて新庄の顔をまじまじと見た。
「整形したって分がるでば…なんぼ誤魔化したって声までは変えられねべものな」
「御託を抜かしてねえで言うとおりにしろ!」
「あんだ、新庄さん?」
「黙ってろ、知るか、そんなやつ!」
「熊蔵さんどごの娘っこ殺したって、この村では大評判だでば、新庄!」
「こいつを殺すぞ」
「脅しのつもりが? 殺ひ、早ぐ殺ひ」
「茂! なんてごど言うんだ? おれだぢは幼馴染だべ」
「幼馴染? 県会議員だなんて踏ん反り返ってばりで、クソの役にも立だね男だでば。そんたらバガは殺してもらったほうがえでば」
「茂、助けでけねったが! 今日はオラえの息子の…」
「悪ぐ思うな、茂。前から、おめら親子を殺してえど思ってだんて丁度えがった。自分の手だば汚してぐねものな」
「茂、おめえ…」
「そうかい、なら思いどおりにしてやるか」
「そだな、早ぐ殺ひ。その後でおめえが殺されるんだ」
茂は、横の傘縦に無造作に立ててある猟銃を構えた。
「さ、まじは、おめがそのクソ野郎を殺ひ! そしたらオレがおめを殺す段取りだ」
平川は、対峙して動かない新庄に怒鳴った。
「早ぐ殺ひ、新庄!」
熊蔵は舟を横付けして火葬船に乗り込んでいた。その熊蔵の目に、反対側から乗り込もうとしているびしょ濡れの映二の姿が飛び込んで来た。
「あの馬鹿、なして!」
熊蔵は急いで映二に駆け寄った。
「おめ、なして、こんたらどごさ居る!」
「…あいつを殺しに来た」
熊蔵は急いで手を差し伸べた。映二はその手に摑まり、船上に上がった。
「あいつ、オレを東京に呼んでヤクザにするつもりだった。逃げてもしつこく付きまとう。あいつが母さんを殺した…許せない! オレはあいつを殺すために生まれて来たんだ!」
「映二…」
熊蔵は映二を強く抱き締めた。 久しく人の温かさに触れずにいた映二の心に悲しみが溢れた。
「もう、じっちゃの傍がら離れるな」
映二は熊蔵に抱き締められた肩越しから何度も何度も頷いた。
「あいつ…本物の県知事夫婦を秋田市の鉄砲町に監禁してるかもしれない」
「おめ、なんでそれを!」
「こっちに来てからずっとあいつを付けてた」
映二は新庄を追ううち、鉄砲町にあるカマス国のアジトを突きとめていた。
小沢鉱山跡の地下壕から県知事の妻を付けて、鉄砲町のアジトに入った事を確認した夜、映二はそこから車で数分の県庁近くにある県知事邸に移動して張ってみた。早朝になって邸前に車が停まった。その車には新庄と県知事の妻が乗っていた。邸から県知事と弁護士の加賀谷が出て来て同乗し、車が発車した。
二人は火葬船の甲板の物陰に身を潜めていた。
「確かにおがしな動ぎだな」
「あいつが許せねえ」
「映二、心を逸らひだら獲物を逃がしてしまうど」
「・・・・・」
「腹減ってねが?」
「・・・・・」
「ちゃんと食ってねば仇も取れねべ」
「昨日の夜、川でカジカ焼いで食べた」
「カジカか…よぐ一緒に獲りに行ったな」
「カジカ獲ってじいちゃんに叱られた」
「そんだっけが?」
「叱られたよ。小さいジャッコは獲るな、獲っていいのは大きいのだけだって」
「言ったがもしれねな」
二人は懐かしさに微笑んだ。
「これがらどうするんだ?」
「・・・・・」
「決まってねがったら、暫くじっちゃのどごさ来い」
「・・・・・」
追い詰められて苦しんでいる孫の姿を見て、熊蔵に後悔のあの日が蘇った…鬼ノ子村は吹雪いていた。無人交番から道を隔てた向かいにあるバス停に、四つの白い影が立った。数ヶ月前に東京から流れて来た新庄と、まだ若い娘の章子だ。章子の両親の熊蔵とシズが、二人から少し離れた所で、悲しげに並んで立っていた。
「母さん…」
ただ泣くばかりのシズに、娘の章子は何を話していいか言葉に詰まってしまった。吹雪が一層激しくなった。無口な熊蔵が言葉を搾り出した。
「章子、苦労するど!」
遠くからバスのクラクションが響いた。日中だというのに雪煙でヘッドライトしか見えないバスが、今にも倒れそうなジーゼル音で近付いて来た。バスは車体に吹雪を這わせながら停車した。ドアが、張り付いた雪を落として開いた。シズが何か必死に章子に叫んでいるが、吹雪と喘息のようなエンジン音に掻き消されて聞こえない。シズの叫びに頷きながら、章子は新庄に促されてバスに乗った。ドアは何の猶予も与えずに閉まった。熊蔵は倒れそうなシズを抱えて見送るしかなかった。バスは再び雪の白煙を上げて吹雪の真っ只中に突進して行った。
雪解けの鬼ノ子村。白布を被ったシズの小さな体が布団に安置されていた。熊蔵は呟いた。
「章子を待でねがったな、かっちゃ…」
章子が去って5年の歳月が経った朝方、シズは息を引き取った。
映二も思い出していた…
民家の家々の前の畑に一面菜の花が咲き始めた頃、熊蔵の家の暗い座敷には真新しいランドセルが置かれていた。映二が熊蔵の傍らで、無表情に病床の母の章子を見ていた。章子の弱々しい目は必死に映二を探して彷徨っていた。
「映二…もうすぐ小学生だね。こごはね、善い人だけが暮らす村なんだよ…悪い人は消える村…ごめんね、映二…映二…早く大きくなって、じいちゃんば守ってね」
映二は頷いた。透きとおるように瘠せた章子は、そのままゆっくり目を閉じた。
「おじいちゃん、お母さんは悪い人なの?」
熊蔵は映二の肩を抱き寄せた。
「んでね! おめの母さんは善い人だ…善い人だがら今まで生ぎで、おめばこごまで連れて来てけだえった。おめの母さんは…善い人だ」
映二の目に見る見る涙が溢れ、堪えていた悲しみの呻きで頷いた。
「映二、強ぐなねば駄目だ! 強ぐなれ!」
火葬船が静かに揺れていた。
「気が付がねがったが喜久治…欲に目が眩むと何も見えねぐなるもんだって」
佐藤県議は平川と小学時代はずっと同じクラスだった。平川の言葉が胸に堪えてうな垂れるしかなかった。
「新庄…あんだの息子が、この間、オレのどごさ来てな…おめが知られたぐねえ大事な話っこして行ったよ」
「映二が何で!」
「やっぱり新庄だな。息子の名前までは喋ってねがたどもな」
「くそッ!」
突然、火葬技師室のドアが開いた。弘ら遺族の服装をしたマタギ衆が操作室を包囲して立った。その間を縫って、はる子が入って出た。
「おめえ!」
「智弘を殺したのは、あなたよね!」
「何だと!」
「あなたは私の息子を殺した人ですね、小沢鉱山の山の中で!」
「・・・!」
「若い衆殺して、喜久治も口封じが…桜庭がら何ぼジェンコ貰う約束だったが知らねども、あの男がらは一銭も貰えねぐなったど」
「・・・・・?」
「桜庭だば、もうこの世さ居ねたものな」
「何だと!」
「人を殺しても一銭にもならねどなれば、早ぐ逃げだほうがええってねが、新庄…ま、一杯呑んでからでも遅ぐねべどもな」
そう言って猟銃を構えたまま、机の隅のウイスキーの瓶を掴む平川に、新庄は思い切り足蹴りを見舞った。平川は入口のはる子のほうに吹っ飛んだが、咄嗟にはる子を避けて壁にぶつかった。その勢いで猟銃と瓶が手から弾けた。
「あ~あ、ウイスキー勿体ねごどしたもんだ」
「てめえから片付けてやる」
「関係ねえオレまで殺すってが」
新庄の握ったサバイバルナイフが平川目掛けて走った。鈍い手応え…
「…バゲモノ」
ドアから突進して来た映二の腿に刺さっていた。
「…映二、おまえ…何でここに…」
次の瞬間、弘ははる子の目を覆ったと同時に、新庄の整形した顔が目を剥いて痙攣した。熊蔵が入口に仁王立ちしていた。
「このバゲモノはオレが仕留めねばならね獲物だ」
熊蔵のヤスが既に新庄の心臓を射抜いていた。
「狙った獲物は必ず仕留める…おめえが最後の獲物だ」
熊蔵は射抜いたヤスを抜かず、その根元を腰の九寸五分のナガサで一気に切ると、新庄はガックリと膝から折れてそのまま息絶えた。平川が二基の火葬炉のうちの巌の入っている隣の炉の蓋を開けると、マタギ衆は新庄の死体をヤスの刺さったまま無造作に担ぎ上げて炉に入れ蓋を閉めた。熊蔵は急いで映二の手当てを始めた。
「熊蔵さん…片付いだしな…やっと…」
弘が手を放してはる子を気遣った。
「奥さん、怪我ながったしか?」
「はい」
平川は新庄の入った火葬炉を指した。
「奥さん…このボタンはあんたに押してもらうべがな」
「私に!」
「息子さんの仇だべ」
「はい!」
「善い人になる最後のチャンスだ、喜久治。バガ息子のボタンは自分で押ひ!」
喜久治はガックリと頷いた。平川が内線で船長の高堰に連絡した。
「船長、お待たせ。したら遺族の方々に案内入れでけれ」
内線から高堰の “了解 ”の返事が返って、船内にアナウンスが流れた。
「ご遺族の皆様、ご起立下さい。これより故人を荼毘に付しますので、どなた様も合掌をお願い致します」
はる子と喜久治によって、それぞれの着火ボタンが押された。 “ボッ ”という微かな振動が届いた時、はる子の心に強い寂しさが込み上げた。
「智弘…」
喜久治がはる子に土下座した。
「奥さん、申し訳ねがったし! 許してけれ! 許してけれ!」
喜久治は土下座したまま声を殺して震えていた。その不様に冷たい表情のはる子だったが、念願叶った感情が一気に込み上げてきた。
待合室のスピーカーからは静かに読経が流れていた。喜久治の妻は、待合室を出たまま帰ってこない夫を気にしながらそわそわしていた。
熊蔵が応急処置を終えた映二に肩を貸して立ち上がった。
「オレの舟で映二ば先に病院さ連れで行ぐがら」
「んだな。したら湊先生に裏の羽立橋まで迎えに来てでけるように連絡しておぐがら」
熊蔵は孫の映二を連れて小舟に移った。
喜久治はふと松森グランドの方角を見上げた。
「巌…」
「少し、欲ばったな喜久治…天罰当だったど思え」
「許してけれ、巌…」
「おめが謝る相手は巌どごろでねべ。同級生ばいじめで何人自殺さひだ、このクソ野郎!」
喜久治は無表情になり、しばらく佇んでから待合室に向かった。待合室では火葬に立ち会っている佐藤家の近親者の啜り泣きが聞こえる。そこに戻って来た喜久治を、妻が見つけて慌てて駆け寄った。
「あんだ、どごさ行ってだの? もう始まってるべ!」
「松森に巌ば迎えに行がねばど思って…」
「え?」
「松森に巌ば迎えに行がねばな」
「どうした、あんだ! 巌は死んで、今、火葬してるべ!」
「なんも、なんも、巌だば松森に居るって。ほら、見でみろ。手っこ振って呼んでるべ。こごさ連れで来ねばな」
「あんだーッ、しっかりさねば!」
弔笛が二つ鳴った。桟橋に並んでいた地元住民たちが一斉に合掌した。
「黒川さん… “お手柄おめでとう ”」
「え?」
「これがマタギ衆の獲物を仕留めた挨拶だし。クマを仕留めたマタギ衆は “ショウブ! ”と合図して、ムカイマッテが “ショウブ、ショウブ! ”と全員に合図しながら獲物に集合して、かぶりを取って “お手柄おめでとう ” と挨拶を交わすんだし」
「それでは…!」
「んだしな。警笛が “ショウブ、ショウブ! ”ど二つ鳴った。何事もなく無事に済んだ合図だ。奥さんも無事だしよ」
「はる子…」
でも…と千恵子は思った。でも…智弘さんは帰って来ないと、千恵子は思った。
火葬炉の音が一層唸りを上げた。煙突から幽かな煙が立ち始め、次第に濃く黒ずんでいった。船長室から煙突を覗いた高堰が呟いた。
「…やっぱり黒いな」
〈最終話「鬼ノ子村の花火」につづく〉
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