第2話 鬼ノ子村
外界から一年の半分が深い雪で閉ざされる鬼ノ子村には「マタギ」という特異な文化が生まれ、継承されてきた。マタギとは、熊などの捕獲を生業とする東北地方の山間に暮らす
鬼の子村の山神信仰の神は女の神様だが気が猛々しいといわれ、夏の間は里に降りて田畑を守ってくれるが、俗物的で汚れた里が嫌いな神様なので、冬になると神聖な山に帰り、里の言葉は使わなくなると伝えられている。マタギ達は狩りに出かける前日になると、全員で守り神の山神様を祭る神社に参拝する。山神様にお神酒をあげ、豊猟と無事を祈った後、マタギの長であるシカリから順番にお神酒を押し頂く儀式がある。そして、モロビ(アオモリトドマツの枝葉)を焚いて燻す線香のような香りで魔物除けをするなどして山に入る準備を整えるのが習わしとなっていた。
山神様は、醜く嫉妬心が強いといわれているが、オコゼを見せると「自分より醜いものがある」と、怒りを鎮めるので、シカリは山神様より醜いオコゼと狩りの秘伝書の巻物を持って山に入ったという。そして山ではマタギ同士にしか通用しない暗号のような「マタギ言葉」を使ったというが、山神さまに欲深い俗物の会話を悟られないようにしたのだろう。
獲物を発見したマタギたちは、シカリの指示で祖先伝来の「狩り座」という包囲網を張った。狩場全体が見渡せる沢向かいの斜面で指揮を執る「ムカイマッテ」と呼ばれる見張り役。熊にトドメを刺す「ブッパ」と呼ばれる数人の撃ち手が、「
鬼の子村でマタギが伝統的な狩猟法を生業として守り続けられていたのは、里に害をなす鳥獣を狩る独自の狩猟技術を持っていたからであり、マタギにとっても里人にとっても獲物を有用に活用できたからである。今でこそ鬼ノ子村のマタギの文化が衰退してしまったが、戦前までは数百人のマタギがひしめいて、山形や福島、新潟、長野などの山々にまで遠征していたそうである。しかし代がわりを重ねるうち、時代の変遷による暮らしの変化とともに、マタギ継承の若者たちは土地を離れて行かざるを得なくなっていった。都市部の開発と相俟って、里は過疎が進み、鬼ノ子村に残された老人たちは生き延びるために新たな策を模索する以外になかった。
〈第3話「老夫婦」につづく〉
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