ホラー短編の名手、遠部右喬さんの書かれた、秋の花にちなんだ3つの怪談です。
遠部さんの「植物記」というコレクションに収蔵されています。
第1話は男女の歴史もの(女郎花)、第2話は現代のリーマン(菊)、第3話は現代のお嬢ちゃん(柊)のお話です。それぞれの花に絡んでいます。
どれもストーリー構成、キャラ造形、文章表現がしっかりしていて、確かな実力の裏打ちを感じます。自分の創作にも学ぶ点が多そうです。
特に気に入ったのは第1話、少女が手の中に捕まえた子供の魂である蛍を助けるため、命を投げうってとった行動に心が打たれますね。
ホラー色は薄目、バッドエンドでもなく、万人向けだと思います。
是非どうぞ。
1話目、夢中で読みました。作者さまの操る言葉、それによる描写、またそれによる物語——すべてが美しく、ものすごい満足感です。
2話目は1話目とは全く違った味わいの作品で、不安になるホラーです。私はもう、自分の命運はこの神様に委ねます。幸い、作中に出てきた不吉な色は見えませんでしたし……神の御心のままに。
「柊」を描いた3話目もまた、1話目、2話目とは違った具合に楽しめる作品で、しかし作者さまの描く美しさをしっかりと味わえる作品でした。ホラーではあるけれども、とても優しいお話です。
ホラーという共通点を持ちながら、まるで味わいの異なる3つの物語。一気に読むもよし、3日かけてじっくり読むもよし——その他なんでも、お好きなようにお楽しみくださいませ。
季節の花を題材にしたホラー「花語りシリーズ」秋の章。掌編三本で気軽に読めます。今回の花は女郎花・男郎花、菊、柊。
第三話「柊」
今回一番気に入った作品。小学生向けのようなやわらかい文体の心温まる内容で、妖艶なるも冷徹なホラーを書いてきたこの作者としては珍しい。けど、案外しっくりくるかも。ツンデレ柊さんのキャラが面白かったです。
怖いものなんて見えない方がいいのだろうけど……切ない。忘れないで居て欲しい。
第二話「菊」
霊的な面接官の話。これも今までにないパターンでした。
わりとすっきり明瞭にオチるのが特徴のこの作者にとって、どうとでも取れる落ち方をする。その分、あれはなんだったんだろうと考える余地があって、ミステリーみたいな面白さがありました。
喫茶店の椅子の色って、白と黄どちらが多いのだろう?
眠気の絶えない社員が、優秀すぎる人材の確率と、二ヶ月以内に病気が発覚する確率、どちらが高いだろう?
第一話「女郎花・男郎花」
寓話のような話。
夏はホラーの季節だけど、秋に移り変わる時期を狙って出てくるお化けもなんだか怖い。
秋は日照時間も減り陰深くなる季節。涼しさにはどこか切なさが混在してる。夏の背筋を凍らせるホラーに対して、秋めいたホラーってこんな感じと思った。
古くから続く、人との関わり合いのなかで生まれた草花の意味づけ。
そして花言葉にまつわる物語を集めた遠部右喬作のコレクション〝植物記〟
本作は、その植物記に含まれる千紫万紅の秋の草花の名を冠する作品集です。
各話は独立しておりますので、どのお話から読んでも宜しいようです。
以下に簡単なあらすじを揚げます。
第一話 女郎花・男郎花
花の化身の男女の物語。
女の見つけた光る粒の正体、それに関わる結末とは。
第二話 菊
会社にまつわる奇譚。
神棚に菊が供えられているのを見てしまった主人公に告げられた社内の伝承。そして主人公の決心を描く。
第三話 柊
不思議なものの見える少女の問題を解決する精霊のような存在、柊さん。
少女だけに視える柊さんとは何なのか。果たしてふたりの関係の行方は。
これら三作品は、いずれも素晴らしく、十分な読後感が得られることと思われます。
ホラージャンルですが、どちらかといえばファンタジーの色合いが強く、どなたも気負わずに物語を堪能できる事でしょう。
秋の季節に秋の花に因む物語を読むこと。
それは趣ある豊かな読書体験となることでしょう。
この紹介文が、皆様の実り多き読書への一助となれれば幸いです。
秋の花をテーマにした、三本の短編からなる本作。
ただの怪奇現象で終わるのではなく、人間の生と死、記憶、関係性までもが巧みに掘り下げられています。
「女郎花・男郎花」は美しい語り口と舞台設定が印象的でした。
少女が手にした蛍のような美しい光がやがて変化していくさまは、どこか無情な残酷さを感じます。
一番身近な現実に近い世界観の「菊」は、あるものがみえるということが会社の査定に関係している、という発想が面白かった。さらりと書かれてあるように思えるのに、しっかりとした読後感がすごい。
「柊」。子ども目線で語られるこのお話は、一見ほっこり系かと思いきや、途中から一気に牙を剥いてくる。なくしてはじめてわかる大切さ。やさしさとはときに恐ろしく、痛みをともなうものなのかもしれません。
どれも、怖さの中に人間の感情や葛藤が感じられるような、心地よい作品でした。
それぞれタイプの異なる三つのホラー。どれもが大満足なクオリティでした。
「女郎花・男郎花」:人知を超えた「花の怪異」の男女が、死亡した子供の魂を観測する話。
「菊」:とあるオフィスに伝わる不思議な話。ぼんやりとした意識の中で「菊」がお供えされているのを見た男は、「菊神様」という言い伝えを聴く。
「柊」:幽霊の見えてしまう少女が、いつも親しくしている「柊の妖精」の柊さんと霊について話をする。柊さんは問題が起こる度に霊現象を解決してくれるが……。
耽美な趣がある話や、土俗的な信仰の不気味さを描いた二作目、そして、どこかぶっきらぼうな「柊さん」と少女のやり取りを描く三作目。
サクっと読める長さながら、一作一作が確実に読む人の心に何かを残してくれます。いずれも「人を理性を越えた怪異の世界」を描き出し、怪異側から見る人の儚さだったり、怪異に振り回される人間だったり、または怪異と人とのあたたかな交流だったり。
同じ「花にまつわる怪異」を描きつつも、まったく違った興趣を読者に与えてくれる。とても贅沢な作品集です。