第13話
「もう持たないぞ!女子供も槍を持って柵からアイツらを刺してやれ!!」
「ダメだっ!数が多すぎる。このままだと村に入ってくるぞ!」
ルークと私が村付近へ到着した所、両サイドから攻め上がるゴブリンの群れが見えた。
ざっと計算すると左30、右60ほど。
中々多いな。
「結構数がいますね、どうします?チーフ。」
「ルーク、お前は左に走っていってゴブリンを殲滅しろ。中にいる村人と連携して現状回復に努めなさい。」
了解!!とバイコーンで駆けていくルークを見送りながら、右側の戦況を見る。
柵を幾重にも繋いで強固にして、高さを作っているようだ。
ゴブリン数匹では確かに村に入ることも出来ないだろうな。
そもそも集落を団体で襲うという行為が疑問なのだが?
元々ゴブリンは2〜10程のチームを作り、各々で生活をする習性がある。
このように100を超える質量で一つの村を襲うという性質があり得ないのだ。
「刺せ!刺して刺しまくるんだ!入ってこられたら終わりだそ!!」
村の青年が叫び、住民だろう女性や子供、老人も混ざり槍を柵の間から伸ばし、ゴブリンを突き続けている。
だが、このままではまずいな。
近くまで来た私は村人達に聞こえるように大声を発する。
「助けに来た!!今から大魔法を使う!!!巻き込まれたくなければその場から離れろ!!」
ブラフだと思われたくなかったので、目の前に見えるゴブリンに向かい、ファイアを放ち行動を目立たせる。
村人が柵から離れ、ゴブリンが勢いつく瞬間時空魔法を叩き込む。
『グラビティ』
今回は範囲を広げて更に圧力を高める。
60強いたゴブリンは一瞬にして柵ごと圧縮されるように押し潰された。
スクラップ工場さながらな光景を目にした人々は呆然と立ち尽くしていた。
…いや、ここまでするつもりはなかったんだがなあ
強すぎるだろ時空魔法
一般的に使えたらバランスブレイカーになりかねないな
レオン自身もドン引きしていた。
そのまま馬に乗ったままスクラップになったゴブリン達の前を通り、村に入る。
柵ごと壊してしまったからね。後で団員に手伝ってもらって直そう。
未だ呆然としていた人々の中から先程指示を出していた青年を見つける。
「反対側は大丈夫なのか!?」
私が叫ぶと正気を取り戻したように青年が答える。
「は、はい!あっちは数がここより少ないとは聞いてましたが、行かないと!」
そう叫び反対側に向かおうとする青年を止め、私は先んじて進んでいく。
「疲れただろう、もう大丈夫だ。俺の仲間が先に向かっている。私も今から向かうので無理せずついて来てくれ。」
そう言って村の中を突っ切っていく。
わかりやすい喧騒の場所に目掛けて駆けていくとそこではルークと村人が協力して戦っていた。
「そっちじゃねぇ!!4人固まって一斉に目の前の敵を叩くんだっ!他のグループも同じようにまとまって戦えよ!その他空いた空間は俺が倒す!」
中々良い指示を出すじゃないか。
集団戦が基本のこの世界では指揮官が優秀でないと必ず誰かが傷つき倒れて、そして崩壊する。
勿論私のような広範囲の魔法を持つ貴族などは戦略の幅は広がるだろう。
が、無尽蔵に打てるわけがない。
実際テキストを確認してみると
私のMPが999から728にまで減っていた。
広範囲の指定や威力の強弱、繊細なコントロールを要望に放つとMPの減りが速い事を狩りなどを行っている際に確認した。
一般の貴族のMPが大体100〜200程なので、先程の私のグラビティの威力を仮に放つとなると魔力切れを起こして不発か、全てのMPを消費して気絶する、という流れになるだろう。
『アクセラレーション』
ルークに速度強化の魔法を付与しサポートに回る。
この分だとルークと村人だけで無事に殲滅できそうだ。
…また柵を壊してしまうと皆に申し訳ないしな。
「チーフ!!ありがたいっす!残り一気に終わらせるんで待っててください!」
そう言い、ルークは今でさえ無双状態の攻撃を更に加速させる。
アイツと剣で打ち合ったら私はもう勝てそうにないなと苦笑しているうちに、ルークが残りのゴブリンを全て制圧したようだ。
「終わったぞ!村の皆!怪我はないか!?」
ルークが村人に声をかけている。
村人の安否を確認している間に先程の青年と初老の男性がこちらに向かってきた。
「先程はありがとうございました。村を治めているラグと申します。村の損害も早く来ていただいたお陰で最小限でした。」
「ありがとうございました!」
「無事で何よりです。怪我をした方もいるでしょう。こちらのポーションを数本お渡ししますのでお使いください。」
私は懐から小さな小瓶を3本程取り出しラグという村長に手渡す。
「おぉ、感謝いたします。しかし我々村には何もお貴族様にお返し出来るものがございません。次の徴税の際に出来る限りお納めいたしますのでお許しいただけないでしょうか?」
恐縮しながらラグはそう言っていた。
魔法を使ったから貴族だと思ったんだな。
早く来ていただいた…この地方を治める貴族に助けを求めていたんだろうか?
「いや、我々は旅の人間で魔法はアイテムを使って発動したものです。貴族ではないから心配しないでください。それと、この周辺を納めている貴族様に助けを要請したんですか?」
貴族と今かち合うつもりはない。来るのなら早々に出ていかなければ。
「そうでしたか。それならば尚の事感謝申し上げます。ここ一体を納められているオークス家の方々に助力を頂こうと村の若い者に向かわせておりました。」
オークス家。
聞いた事がないな。何にせよ貴族は基本理不尽なのが多い世界だ。会わない方が良いだろう。
私達が来た道を見ると旅団の馬車が近づいているのが見える。
戻ろう。
「そうでしたか。では、貴族様がいらっしゃいましたら現状の報告と西側の柵の補強をお願いすると良いでしょう。我々は急ぐ身なので先を急ぎます、では。」
ルークと共に逃げるように戻ろうとすると馬車の反対側から土煙が登っていた。
早いな、しっかり納めている領主なのだろうか。私達が村から出ようとする前に到着してしまったようだ。
「皆!ゴブリンの群れはどこだ!?オークス騎士団が来たぞ!」
かなり急いで来てくれたようで、馬のバイコーンも騎乗している兵達も息が荒い。
20騎か。
この村に対してこれだけの兵を動員するのは中々ないだろう。
村人達の表情も改めて安堵しているようだし、圧政を敷いているようではないようだ。
「オークス様!わざわざ来てくださいましてありがとうございます!大量のゴブリンに襲われておりましたが、そちらの旅のお方のお陰で無事に事なきを終える事ができました。」
村長のラグはそう言い、フルフェイスに覆われている騎士が私に話しかける。
咄嗟に私はローブを被り顔を隠す。
森羅旅団の頭目がどれくらい有名なのか分からないので念のためだ。
「そうであったか。旅の者よ、貴公の助力感謝する。村が無事なようで何よりだ。」
「いえいえ、たまたま近くを通ったので助太刀したまでです。後は宜しくお願いします。」
「いや、待て。そのまま帰すのは騎士として恥である。何か褒賞をしたいのだが待ってくださらぬか?」
「いえいえ、私達はこれといって大した戦功を上げておりません、それでは。ルーク、いくぞ。」
全力で逃げよう。
旅団がバレたら仲間を失いかねない。
反転して全力で駆けようとするレオンとルーク。
そこで小さな村の少女が騎士にとんでもない事を暴露してくれた。
「すごかったんですよーオークス様!ゴブリンが沢山いたのに一気にべちゃー!!ってなって一瞬でいなくなっちゃったの!」
「こ、こら!すみません、オークス様。ですが娘が言う通り旅のお方がアイテムを使い、魔法で上から押し潰すようにゴブリン達を倒してしまったのです。」
おい、青年。
そんなに誇らしいように言わないでくれ。
もう絶対逃げたら追ってくるじゃない。
「上から押し潰す魔法?そんなレベルの魔法が宿ったアイテムなど聞いた事もない。それにその圧力を使った魔法なんて、兄さんしか…」
途中から小声で聞き取れなかったが、そんなアイテムなんかないのは正解だ。
このまま調べ上げられても困るので最早勢いで行こう。
「騎士様。すみませんが先を急いでいて、褒賞などは一切入りません。もし、心残りがあるのでしたら我々の褒賞の代わりに村の補強等に回してくださいますと幸いです。」
「いや、しかし…そうだな。わざわざ駆けつけて村を助けてくれたのだ。そちらがあまり詮索されるのが嫌だと言うならその様にしよう。」
話わかる人で良かった。
「最後に名前と顔だけは見せてはくれないだろうか?村を救った英雄の名前を知らないというのはいただけないのでな。勿論、それ以上の詮索をするつもりはない。」
素直に返してはくれないのですね。
仕方ない、と被っていたフードを外し、名を名乗る。
「私はレオン。ただのレオンです。これで宜しいでしょうか?」
……………
……………
あれ?なんだこの沈黙。
バレた?
警戒心を少し強めた私を見てルークもいつでも飛び出せるような位置に着いた。
「にい、さん。」
ん?にい、さん?何かの合図か!?
「兄さん!レオン兄さん!!生きていたんですね!!私です!妹のクレアです!」
フルフェイスの兜を脱ぎ、私を兄と呼ぶ女性。
綺麗な黒髪と涙を流している美少女が私に向かって叫ぶ。
「え、兄?え?」
「チーフ?の妹さん?」
私もルークも困惑していた。
レオンに妹がいたなどストーリーでは全くと言っていいほど出てこない。
初見で死ぬ奴にそんな物語作らないしな。
「兄さん、良かったあ。生きていてくれたん、ですね。」
相変わらず涙を流しながら近くに馬を寄せ、抱きついてくる女騎士様。
何故村人達は温かい目線をしているのだろう。
ルークはどうしたらいいのかわからず、私の顔を向いたり、女騎士の顔を見比べている。
暫くこの状態が続き、旅団の馬車が到着するまで続いた…
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