第16話


「ここがオークス領か。」


ゴブリンの襲撃があった村から約2時間程の場所。

夕方に差し掛かっていた。


長閑な田園風景、活気のある市場。

ここに住む民衆が生き生きとしている印象を受けた。

何より帰省した騎士団を労って庶民が話しかけ、騎士団の人間も仲良く受け答えをしている。


「先代のオークス領主が善政を敷いていたので、私に変わった今でも我々貴族と住民の間では程よい交流と続け、平穏を維持しています。」


「…クレアは最初、この光景を見てどう思った?」


「初めは戸惑いました。これまで生きてきたプライドもあってか、ロクに民衆と話などせず舐められているという印象を持っていました。ですが、先代が作り上げたこの街で暮らす事で私個人の概念が変わっていきました。今ではこの領は私にとって大切で、守るべきものです。勿論ここに住む民の皆もです。……どうですか?レオン兄さん?」


「………良い街だ。私が今、理想とする現実に近いものがある。先代の善政に敬意を評するよ。」


「…そうですか。兄さんに褒めていただけてこの街も嬉しく思っておりますよ。」


「クレアも、それに付き従っている人々も素晴らしいと思っているよ。」


クレアは照れているようで馬に乗りながら俯き赤面している。


「それでは!皆様、本日は私の館でお休みください。皆様の人数が少し多いので大部屋をいくつかになってしまいますが。」


「それだけでも嬉しいよ。それに仲間達まで受け入れてくれ本当に感謝する。」


「お気になさらないでください!兄さんの事を皆尊敬しているようですし、信頼しております。それに、村からここまでの行軍でも徹底した規律と迅速な行動指揮に我々騎士団も舌を巻いておりました。」


この2時間の行軍中、クレアと騎士団の面々に旅団員の有用性を見せるために先導と各役割を先んじてやらせたいもらっていた。


私が中央で指示をし、ルーク達前衛脳筋チームで前後の警戒にあたり、ジェイク達斥候が先に進み、道中の警戒。


領に行くまでに残党ではないであろうゴブリンや狼のような体格のライガーと呼ばれる魔物と数回かち会ったが、斥候のジェイク達が気付かれずに殺し、我々の近くに来た魔物はルーク達によってあっさりと息の根を止めた。


しかも、何かある度に都度私に各チームが報告、連絡、相談をしてくるのを目撃しているのでびっくりしたのだろう。


統率力の高さには自信がある。

これは前世の力 仕事によるものだが、トップからサブ、その下のスタッフまで情報伝達、指示を明確にしていれば、クレームも最小限で抑えられるし、良い気づきを発見できたらゲストにより良いサービスを行うことができる。必ず終わりにミーティングを軽くして各々意見を出し合う。そうする事で次に繋がる力にもなるし、各々に自信と責任感という取得するのが難しいスキルが身につくのだ。


魔法はすごい。

私も最初に使った時には驚いた。


不可能を可能にするのが魔法。

だが、それにばかり頼ってはいざという時手札が無くなる。

MPが全て切れて、ルークのような脳筋剣士と戦うことになったら死ぬ自信が私にはある。


まぁ極論な例えだが。


日頃努力する事で様々な素晴らしいスキルを取得できるのが人間だ。この世界だって前世とそれは変わりはないと思っている。


ただ、どうやって努力すれば〇〇を取得できるのか?〇〇が何に役立つのか?

そこをしっかりと話をして行動をしてくれないと意味がない。無いわけではないが答えに導かれるのは遅いだろう。


私ならそれができる。

偉そうに言っている訳ではなく、実際にやってきて乗り越えてきたからだ。

それこそこんな事を言っているが、私だって仕事を始めた頃なんてボロクソだった。

何度も辞めたいと思ったし、朝から晩までなんでこんな安月給で働かないといけない。

業種変えようかな、など計り知れないくらいあるのだがキリがないのでやめておく。


要は目標を明確にして進ませる能力を持っているという事だ。

だが、私もまだまだ研鑽中。

覚える事も直すこともまだまだ沢山ある。



最後にこれだけ。


責任はトップが全て取る。

それを下についてきてくれる人達にしっかりと伝えて、実行する。

まずこの芯がしっかりしていなければできない事だが。


「着きました!バイコーン達はこちらの宿舎へどうぞ。兄さん達はこちらへお進み下さい。」


おっと、長々とした講釈を語っているうちに目的地に着いたようだな。


大きな館だが、無骨で贅を尽くしているような感じではない。普通貴族というものは見栄と箔を見せるために豪華な装飾品など多数飾るものなのだが。


「昔からこのような館だったのか?」


クレアは意味を理解しているようで答えた。

「先代は無駄な金で無駄な物を買うのならその金で領民に酒でも振舞えっ!!という方でしたから。」


何本当。

なんでメインストーリーに出てこないのっていうくらいの素晴らしい貴族だな。

後ろで話を聞いていた旅団員もノブリスオブリージュを体現しているような話に深く感動していた。


「さて、今日はお疲れでしょう。湯浴みを先にしていただき、その後は皆さんでお食事をしましょう。只今準備しておりますので、こちら一帯の部屋を全て使っていただいて良いのでお休み下さい。」


「何から何まですまないな。恩は必ずお返ししよう。」


「そんな事お気になさらないでください!私にとっては優しい兄さんが生きてまた再会できたことが一番の恩なんですから!」


「いや、兄弟だからこそ、だ。まぁ難しい話は明日にして今日は改めてお世話になるよ。」



しばらく荷を解き、部屋割りなど団員皆で精査しながら交代で風呂に入り、その後食事を頂いた。


転生してから今日まで酒というものは飲まなかった。

いや、飲めなかったんだな。

常に緊張し、いつ騎士団が襲ってくるかもわからない状態だったから。


クレアから夕食時に注がれたワインは心の底から美味しかった。

ワインソムリエとして蔵を管理してグランクリュなどをサーブをしていた時代からすれば中々ライトな味だったが。


この日は心から沁み、味わった。

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