第15話


旅団の皆が集まった所で大まかな説明と謝罪した。

要約するとこうだ。


レオンは元貴族。戦争で家が没落し、平民堕ちして出奔した身。


戦争時の光景を目の当たりにして、貴族と平民の格差、本当にこのままでいいのだろうかと思い始め、戦争で使い潰された平民の戦士や戦争孤児を集めて旅団を設立した経緯。

目的は現主力の貴族への復讐。


クレアという実の妹がいて、他家の養子として現在この一帯の領主をしている事実。これに関しては私も初耳だったと付け加えた。


メンバーが今まで貴族から搾取され、恨みを抱えているにも関わらず、創設者が元貴族だと黙っていた事を改めて謝罪した。


皆一様に黙って聞いていた。


先に言葉を発したのはルークだった。


「いや、まぁ驚くかと言えば驚きますけど、前から貴族の出の人だったのかなぁと思ってたんで別にどうって事ないですね俺は。」


「チーフ言葉遣い綺麗だし、わざと『俺』とか使ってる感じしましたもんねぇ。」


「そもそもあんなに強い魔法を使える段階で平民とか…」


など、多数声が上がったが恨みなどの声は上がらない。


「確かに私達は今の戦争、貴族の都合で家を失ったり家族を亡くしたりした人がほとんどです。でも、レオンチーフに感謝こそしますけど恨む人なんて森羅旅団には誰もいませんよ。」


ミュゼが代表するように答える。

皆一様に縦に首を振っている。


「行き場を無くした私達を拾ってくれて、今こうやって皆が皆信じ合えて。本当の家族のような居場所を作ってくれたチーフに感謝しているんです。チーフが貴族か貴族じゃなくたって私達が信じてついて来たのは今のレオンチーフですから!なのであまり気にしてません!」


皆笑顔で納得してくれている仕草を見せる。



こちらこそ感謝しかないな。


罵倒されても仕方ないと感じていたのに。


中々に得難い信頼だ。



「あ!でもチーフが貴族で妹さんとこうやって会えたって事は、もう俺らのチーフでいてくれる事はできないのか…」


沈んだ声でルークは呟く。

皆も今後どうするのか不安げな表情だ。


「俺はー、いや、私は君達と別れるつもりは一切考えていない。これまで私と一緒に活動してくれた恩も、今、目の前で見せてくれた信頼を、裏切るつもりは一切ない。」


「でも、これから私達はどうしていけばいいのでしょうか?」


「ここまで私を信頼してくれている君達に、一つ提案があるんだ。

これからも私をチーフと呼んでくれるのなら、絶対に後悔する事のない安心な生活と今の貴族体制を本格的に変える戦略を全力で考え、導こうと思う。

どうだ?提案、聞いてくれるかい?」


なんか悪魔の囁きのような言い方になってしまった。









『『チーフ!お願いします!!』』


数秒程立ってから全員が半年前からミーティング時に採用した挨拶でビッと気を付けして返事をする。



「そうか、君達の選択は間違いではなかったと3ヶ月以内に皆が思えるように私も頑張ろうじゃないか。それではお話しましょう、この後の流れを。」




それから30分程のミーティングを始めた。


村の補強を終えたクレアと騎士団達が集会所に来る頃。






団員達の顔は引き締まり、それでいて複雑な表情だったと後にクレアは語っていた。



…………………………………………


北の要塞都市

ラインフェルト家にて。


「まだ見つからないのか?俺が言った周辺にも居なかったのか!?」


「は、はい!確かに奴らのアジトのような拠点は何ヶ所かありましたが、もぬけの殻で数が月以上生活していたような跡は残っておりませんでした。その他周辺を探しても森羅旅団の足跡すら掴めていません。」


豪華な椅子に座り、ワイングラスを傾けていた青年は、報告をしていた男性に対して持っているグラスを放り投げる。


「っ無能どもが!!草の根を掻き分けてでも見つけ出せ!!革命でも起こされて民衆が反乱してからでは遅いんだぞっ!!」


「すみません!!もう一度捜索隊を結成し、行動に移します!失礼いたします!」




そそくさとその場から引き下がる男性を見送り、自身の爪を噛みながら足踏みをしている青年。


「なぜ、森羅旅団の足取りが掴めないんだ?シナリオ1ももう中盤だ。今頃、残党狩りを終えてラグナ公爵の所へ行き、褒賞と姫との出会いの場面のはずが…そもそも最初に死ぬ旅団のトップが何故、ルークを逃すだけでなく本人もいなくなるんだ。こんなのは知らない。流れがまるっきり変わって来てるじゃないか。」


早く森羅旅団の足跡を見つけ、残党狩りをし、シナリオ通りに戻さなくては。


せっかくリメイクでスマホのアプリゲームになって今もどハマりしているゲームの世界の主人公になったのだから。


ジーク-ラインフェルトは呟く。


「殺す。俺の世界にズレを起こす奴らは全て皆殺しにしてやる。今の俺には力がある。絶対に成し遂げるんだ。幸せなハッピーエンドを。俺にはできる。今の俺には……」



その後、森羅旅団の足取りが一向に掴めず、無理矢理手柄として別のものをラグナ公爵へ上奏するジークが登場するが、もう少し先の話になる。


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