第9話

ミュゼ視点


「このように皮を剥くのはいつも通りだが、この穀物は時間が経つと角のようなものが出てくるのはわかるかい?」


「はい、アレが出てきたら体に悪いので捨てるしかないんですよね?」


「いや、確かに毒だがナイフで周りをくり抜けば基本的に問題なく食べれるよ。話を聞く限り茹でるのが基本のようだがその他にも、、、」


レオン団長、今日は良く話す。

いつもならほとんど口を出さないし、料理なんて何も出来ないという感じだったのに。


しかも、魔法をあんな風に使えて畑も一瞬で作ってしまうとは。

ルークにもさっき騎士団からアジトが見つかった時に魔法で団長が逃してくれた!と聞かされていたが、単純なルークの話なので半信半疑で聞いていた。そもそも貴族にしか使えないのが魔法というものだ。

その力によって平民はロクに戦うことも出来ない。

でも、実際にこの目で見てしまったら疑いようがない。


団長は元々貴族なのかな?

どうして旅団なんか作って私達を生活させてくれるのかな?とか色々考えた。


三年前、幼馴染の私とルークは住んでいた小さな村を貴族の騎士団に燃やされた。

なんでも焦土作戦?というもので食糧や住居を敵の騎士団に使わせないような事だと団長に教えてもらったけど、当時の私達は何もわからず、親から森に山菜を摘んできてと言われ、戻ってみると村が燃え盛っていた。


地獄はここだと思った。

女と子供は貴族に連れ去られ、歳の取ったおじいさんやおばあさんは無惨に剣で殺される。

お父さんとお母さんに会いたかったけど、村の人を次々に殺していく騎士団を見てルークと二人で怯えて隠れていた。



時間が経って村の喧騒が静まってから二人で見にいった。


建物は黒く煤けてまだ熱がある。


倒れている村の人であろうものは、皮膚が爛れ最早誰なのかもわからない。


私とルークの二人は家が隣だった。


お父さんとお母さんを探すとすぐに見つかった。


周りの人達よりも損傷が酷く原型がわからないけど確かに、確かに両親だと感じた。


ルークの親も同じような感じだった。



隠れていた時から泣いていたから涙も枯れていた。




喉が渇いてるし、お腹も減った。




これからどうするかなんて何も考えられなかったし、わからなかった。



「酷い事をする。所詮民は家畜、戦争の道具という事か。」


村の入り口から声がした。

背が高く、黒いローブを羽織った男性であった。

私達にゆっくりと近づいてこう言った。


「行くところがなければ俺についてこい。お前達の復讐を手伝ってやる。」


しばらく言っている意味がわからず呆然とした。

ルークは隣で泣いていて私にしがみついている。


復讐?誰に?

村を燃やした奴らに?

貴族?騎士団?

私達が?どうやって?


あ、そうか。


お父さんもお母さんも殺された。


住んでいた村も全て焼かれた。


今は私とルークの二人だけ。


心細いし、寂しいし、なんでただ、皆で過ごしていた場所が急にこうなったんだろうと思っていた。


戦争が始まったのは知っていた。

お父さんが言っていたから。


でも私達には関係ない事だと思っていた。


毎朝水を近くの川にルークと汲みにいって


お父さん達は畑に行って


腕自慢の人達は森で狩りをして


お母さん達は家の仕事をして


私達子供はお手伝いが終わったら暗くなるまで遊んで


そんな日常を奪ったのは


戦争だ。


貴族だ。


沸々と感情が昂っていくのがわかる。


あの楽しい日々を一瞬にして壊していった貴族の人達。



壊したい。


同じ思いを与えたい。


悔しいし、何も出来ないけど

今目の前の人が私達の復讐を手伝ってくれるって言った。


誰なのかはわからない。


けど物凄く悲しい目をして、私達に言ったのはわかる。



ついていこう。

ルークと一緒に。

ルークは泣き虫でいつも一緒だったから私がそばにいなきゃ。


この日、差し出された手を取ったのが

レオン団長との初めての出会いだった。



その後、色々な場所を転々として、今の拠点に落ち着いて孤児の子達や他の大人の旅団員の人達と生活することになった。


あれから三年…


ルークは体つきが男らしくなり、団長や周りの大人達に剣を教えてもらって逞しくなった。


私は女性の大人達から料理や洗濯、今ある食糧を計算して何日持つか、敵から見つかった際どうやって立ち回って逃げるかなど、様々な事を学んでいった。


今でも戦争は続いているし、私たちのような村や街は沢山出ているだろう。


この戦争に意味があるのか?

私達庶民は何も言えず貴族達の道具にされ続けるのか?


今なら団長がこの森羅旅団を作った意味がわかる。


団長が例え貴族だったとしても私にとってはどうでも良い。


あの日手を差し伸べてくれたのが団長で


これまで命を繋いで育ててくれたのも団長と団員の皆で


今採れたジャガイモを皆に美味しく食べさせようと調理している団長が私達の信じている人で、希望なのだ。


「おい、ミュゼ。聞いているかい?ジャガイモを油で揚げる料理とか食べた事は?」


「油で揚げる?油は鉄板に焼くときに塗るものですよ?そもそも揚げるっていうのがわかりません。」


「生活基準が何となく見えてきたな。塩はあるし先ずは食生活を変えてみるか。」


「手伝います!どうすればいいんですか?」


「俺の調理法を全て教えてあげよう。ミュゼはこれからも宜しく頼むよ。」


「はい!任せてください団長!」


復讐は勿論、まだ心の中に残っているけど


今はこの生活をなんとか守りたい。

団長やルーク、子供達も守れるように。


「団長、魔法って私でも使えるんでしょうか。」


「ん?魔法、か。平民拾って育てた時も覚えれたから出来るとは思うんだが、、、」


団長が静かに何か呟いている。


「これを作って食事が終わったらもう一度魔法について教えよう、ミュゼ」


「わかりました。宜しくお願いします!」


玄関の扉がいきなり開き

「団長!!草根絶やしにしてきましたよー!腹減ったー!!」

《腹減ったー!!!》


ルークと子供達が手を泥だらけにしながら一緒に叫んでいる。


「ルーク!間も無く出来上がるから子供達と手を洗ってきなさい!」


「あーい、どれ、裏の水桶に行くぞー」

《行くぞー!》


ルークと子供達が裏手にはしゃいで向かっていく。


「どれ、ミュゼ。お皿に盛り付けて貰ってもいいかい?」


「はい、わかりました。」






魔法が使えたら団長と一緒に戦えるかな?

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