第18話


………3ヶ月後………

夏から秋に移行し肌寒い日が続く季節になった。日本製のゲームなので四季は日本と同じなようだ。


今、私はアンティークな木の温もりが感じるような落ち着いた店内で腰をかけている。


「お待たせいたしました。失礼いたします。」


茶髪の髪を樹脂で作られた液体でオールバックにし、現代でいう黒服と蝶ネクタイを身につけ、慣れた手つきで紅茶を私にサーブするナイスミドル。


ジェイクの姿があった。


差し出された紅茶を一口飲みほっと息を吐く。


「素晴らしい所作です。まさか数ヶ月で黒服の仕事を身につけるなんて考えもしませんでしたが、貴方の情熱と努力の賜物でしょうね。」


「恐縮でございます。チーフから教えていただいた事を身につけさせていただき、実行出来ることに感謝を。」


「すごい…元々落ち着きがある雰囲気のジェイク殿であったが…こうして言葉遣いと接客の仕草を見るとオークス領の、いや王国の給仕達よりも洗練されているように見えます。」


「お褒めの言葉ありがとうございます、クレア様。ですが、我々がこうして真っ当な職を得られているのも一重にクレア様、並びにオークス領に住む方々の支えのもとでだと重々承知しております。スタッフを代表して改めて感謝と御礼を申し上げます。」


受け答えの後に完璧な一礼を見せるジェイク。

ふむ。流石はジェイクだ。

彼は森羅旅団の斥候隊のリーダーというのもあり、足跡などの気配や、それに伴う体幹がしっかりしていた。

リーダーをしていた責任感もあり、私の指導を一番集中して聞き、皆が寝静まった時間にも一人ロビーで接客の動きの反復をしていたのを私は見ている。


後、私は今店内にいるのもそうだが、サービスマンの見本でなければならないので部下に対しても敬語を使っている。

寧ろこのまま敬語を使い続けた方が楽なのだが、ミュゼとルークからチーフが離れていく感じがするからやめてほしいと懇願されたので、店内での視察、従業員の教育の時だけ敬語を使用している。


パワハラだとか長期労働だとか現代では盛んに騒ぎ、退職代行という仕事を辞めるためにわざわざ別の人を雇い解雇の手続きをする業者まである。

パワハラも長期労働も社員の人間には辛くあってはならないと私も思っているが、それと別に自ら努力をして、結果を出す姿勢は誇らしいと思う。


事実いくら斥候隊長といえど、30を超えてから全く違う動き、それこそ人を殺すのではなく、人に喜ばれる仕事をするのだから尚更だ。

それを言い訳にせず、日々仲間のために少しでも早く身につけようと努力する姿は私にはかっこいいものに写る。

入社したての私を重ねているのだろうが、年の功もあってかジェイクは実際私より飲み込みが早い。

すぐ自分のモノにするジェイクにある種の教育心を刺激され、今ではホテルやレストランでたまに見る、料理をその場で捌くゲリトンサービス。所轄カッティングサービスもマスターしてしまっている。


今の私よりも貫禄があるジェイクがサーブすると周りで飲食をしている庶民の淑女の方々は恍惚とした表情を滲ませていた。


ナイスミドルはレディーキラーなのだ。


1ヶ月前にオープンしたこのアンティークなレストラン。

ここに勤めるグループを研修していた間に、この領内の大工さんと手持ち無沙汰だった脳筋部下達にものすごいスピードで繁華街の一角に建ててもらった。


そこまで全力で取り掛かってくれとは言っていなかったので無理していないか確認に何度か現場に行ったのだが

「ジェイクの兄貴が本気でチーフから指導受けてるんだから俺達も全力で何かしてやりたいんです。チーフもそうですけど、ジェイクの兄貴にもお世話になってましたし。」


とルークが発言し同志達が深く頷いていた。あまりにも愚直で真っ直ぐな言葉を聞いてしまい、こんな人達を蔑ろにして戦争をおっ始めた両翼の貴族どもに絶対に何かしらの報復をせねばと深く決意した。



紅茶を飲み終え、私とクレアは席を立つ。

店内のお客様はチラッと私を見ているが軽く会釈をし、そのままキッチンに入っていく。


オープンの10日間は私がフロアマネージャーとして運営と接客、キッチンなどを全て管理していたので見慣れた光景だろう。


お客様第一号であるクレアが絶賛し宣伝してくれたお陰で警戒心が薄れ、平民でも食せる料金設定にしたのも功をなし連日繁盛していた。

まぁその前に領民に先触れで私がクレアの兄と公表し、兄を慕って付いてきた仲間達と領内でレストランを開くという情報が流れていたので興味はあったのだろう。


「あ、チーフ!お疲れ様です!」

『『『お疲れ様です!』』』


キッチンに入る時調理中の作業を止め、ミュゼを先頭に5人の厨房スタッフがレオンに挨拶をした。


「お疲れ様です。皆さん作業に戻ってください。仕事を中断させてしまい申し訳ない。」


スタッフ一同再度一礼した後、各々の作業に戻る。


「ミュゼ、今の作業が終わって急ぎの調理などがなければ少し私とお話ししましょう。」


「はい!丁度終わったところだったので今行きます!」


キッチンは元々転生してから私の知識でこの世界にない調理法を教え続けたミュゼを筆頭に、料理をしたいという志願者、20〜から40までの男女で構成されている。

ミュゼをトップに置くのは年下だから面白くないかな?とも思ったが、団員の連中はチーフのそばでずっと教えてもらったんだから当たり前だろうと、あっさりとミュゼをトップに認めていた。

旅団の絆の強さを改めて感じた。


「お待たせしました!チーフ。クレア様もお疲れ様です!」


「仕事の合間に申し訳ない。私が抜けてから20日たった今ですが、料理のオペレーション、労働環境等分からないところや改善して欲しい所はありますか?」


「はい!チーフのレシピを見ながら作る事はもう皆が出来るのでホールマネージャーが5日に一回ミーティングを開いて話し合う機会をくださってるので特に不満等はないです!」


ホールマネージャーとはジェイクのことだ。

マネジメントのスキルも教えていたので実行していた。勿論会議の内容をジェイクが私の所に相談しに行く事も既に3回ほどあるので認知はしている。


「そうですか。これから冬になるし教会の祝日などもイベントに託ける事も出来るのがサービス業です。マネージャーの事を信じ、仲間を信じて頑張ってみてください。お客様にお出しする料理もミュゼ達なりにアレンジしてくださって構わないです。まだ1ヶ月なので、これからどんどん色んな問題や試練があるかもしれませんが、仲間に相談、私に相談しても構わないです。今は皆さん一所懸命に料理に集中するといいでしょう。」


ミュゼだけでなく、他のスタッフも聞き耳は立てていたので作業を中断して頷いていた。


「おっと、時間がないとはいえ開店中に言うことではなかったですね。お客様に提供する料理が遅くなると私こそがクレーマーです。それでは。」


「ありがとうございました!そして、無事に帰ってきてくださいね!あとルークにも怪我するなと伝えてください!」


ミュゼがキッチンから出るレオンにそう言うと口調を砕きレオンはニコッと微笑み

「任せておけ。君たちの長はすごいんだという事を結果で示してくるよ。」


ジェイクに挨拶をし、店を出るレオンとクレア。繁華街の領がある西側からバイコーンに跨った10騎程の黒のローブを見にまとった舞台が進んできた。

フードを外した先頭のルークが私に問いかける。


「兄貴とミュゼ達とは会えましたか?こっちは準備万端です!」


「あぁ、立派なジェントルマンと可愛いシェフに挨拶をしてきたよ。」


そう言い、ルークが手綱を持っている騎乗していないバイコーンに乗り、クレアに向き合う。


「クレア、聞きたいことは沢山あるだろうがこの遠征が終わったらゆっくり話をしよう。聞きたいのを我慢して黙っていたことに感謝する。」


私が何故、下の身分の者がやるような接客作法を知っているか。

未知の調理法を広め、飲食店なんかを作り上げたか。

などなど、おおよそクレアと別れてから三年で得られる知識ではない事はクレアは勿論わかっているだろう。

ただ、生き生きとしている私と旅団の皆を気遣って特に疑問などを提示してこなかったのだ。


「はい、聞きたいことは沢山ございます。ですが、兄さまが前と違い明るく生活をしているのであれば些細なことだと今でも思ってます。…ですが、無事に帰って来てくださったらその時にお話聴かせていただければと思います。」


「わかった。その時にはまた二人でワインでも飲みながら語ろうか。それではカーネ騎士団出発するぞ!」


私の掛け声と共に隊は進む。

カーネ隊とは現代ハワイの神の名から取った。流石に森羅旅団で外で活動すると普通に討伐対象になるので旅団の森羅、森羅万象を司る神の名前だと皆に提案したら快く賛成してくれたのだ。

クレアの建前もあるので騎士団という語尾をつけ、オークス領の新遊撃騎士団と周囲には伝えられている。


通る市民から声援を受けているルーク達。

この3ヶ月の間に出没した魔物などを誰よりも早く出立し討伐、大型の魔物がいれば肉を解体し、無料で領民に配ったりしていたので周囲の評判は高い。

ナイスミドルがサーブするレストランも我々が設立した事実も知っているので尚更高い。



生活の基盤が整ってきた。


これからまずやるべきことはシナリオ1の終

盤。

ゲームでは名もない村が大勢の魔物に蹂躙され、村人が全員死ぬ前に対策を練らなければならない。


確定した未来が悲惨なら知っていて力のある者が対応するのが当たり前だと思う。


剣術なんてここに来てから始めたが正直この後ろの部下達の足元にも到達していない技術だ。

だが、私には魔法がある。

時空魔法というラスボスが連発する強力な魔法を所持している。




シナリオの大筋は主人公様が当たり前のように進んでくれて構わない。


だが、不幸な出来事は知識を使って対応してやる。

これが最近私がこの世界に転生した理由かな?と自己解決して導いた答えだった。


一回死んだ身だ。

ゲームでとことん最悪な結末を回避していこうと改めて決意し、オークス領の門を通行するレオンとカーネ騎士団達であった。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る