19
「ゆめさき……おぼろ…」
「はい。そうですけど…」
名前を呼ばれた男は不思議そうに俺を見つめた。俺はそんな男に近づき、男の帽子と眼鏡に手を掛ける。
「あのぉ…、何か?」
戸惑う男を気にもせず、そのまま帽子と眼鏡を奪い取った。そこには驚き固まる朧の顔があった。
「え…ええっ!?いきなり何するんで──────」
朧はそこまで言うと口を噤んだ。抱き締められて息を詰まらせたのだろう……。大人しくなった朧を俺は更に強く抱き締めた。朧は俺に戸惑いながら口を開く。
「……あの、もしかして僕のお知り合い、、だったりします?」
「さぁ。どうだか……」
伺いを立てる朧に俺が白を切ると、朧は暫く黙り込んでいた。だが、そのうち俺の背中に手を回してきた朧は小さく呟く。
「僕……前にも同じ事があって、凄く嫌な思いをしたんです。だけど、今は不思議と嫌じゃない…気がします」
俺の肩に軽く頭を乗せ、甘える子供の様に抱き着いてくる朧に俺は昔の過ちを思い出し、自責の念から自然と言葉が溢れ出した。
「ッ……ろ、おぼろォッ…あの時はゴメン…ッ!ほん、とうにゴメンなぁ…ッッ!!」
この時、俺は全てを理解した。
何故、朧がオバケになっていたのかも。何故、夢をみなくなったのかも。そして何故、オバケに頭が無かったのかも────俺は朧の髪を掻き乱し、掠れた声で謝罪した。朧は俺の背中をあやす様に擦りながら聞いていた。それからポンポンと背中を叩くと、俺を励ますように朧は告げる。
「……大丈夫。もう、泣かなくてもいいんです。自分を責めなくてもいいんです。貴方はこんなに謝ってくれたのだから…それだけで、僕は十分です!」
どこまでも優しい朧は、俺が泣きやむまでずっと抱き締めてくれていた。
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