20
コインランドリーを出た直後、朧は俺に名前を訊ねてきた。俺は自分の名前を明かす勇気がなかったが、朧にどうしてもと言われて渋々告げた。
「俺は……新生 充【しんじょう みつる】だ」
「えっ…あの新生くん!?」
「……おう」
名前を聞いた途端、朧は暫く無言になった。この空気が何ともいたたまれなくなり、俺は背を向ける。
「やっぱ言うんじゃなかった…!」
「あっ、待って新生くん!!」
そのまま歩き出そうとしたら朧に手を掴まれ、ビクッと肩が跳ねる。すると、朧は俺の様子に慌てて手を離した。
「あっ、いきなり掴んでゴメン……。やっぱり気持ち悪いよね?」
朧は申し訳なさそうに自身の手を引っ込めた。俺はそんな朧に溜め息を吐いて文句をつける。
「なーにが気持ち悪いだよ。さっきまで抱きしめてた奴がよく言うぜっ!」
「だって……」
よそよそしい朧の態度に、とうとう頭に来た俺は朧の手を掴んで歩き出す。
「うわっ、ちょっ新生くん!?」
「ウダウダしてんじゃねぇッ!だいたい、手なら前にも握っただろうが……!!」
「えっ?」
人混みの中で手を繋ぎ、別に何処へ向かう訳でもなく突き進むと、朧は握られた手をゆっくりと握り返した。それを横目に鼻で笑う。
「まぁ、お前は覚えてないかも知れねーけどなぁ?」
ボソリと言えば、朧は何かを思い出した様に呟いた。
「……ううん。なんとなくだけど覚えてるよ。そっか、あれは君だったんだね」
「はぁ?」
「フフ、なんでもない。夢の話さっ!」
朧は俺の手を引きながら『これから何処へ行こうか?』と楽しげに横を歩き出す。
「おいおい、手は繋いだままでいいのかぁ~?」
握られた手を持ち上げて揶揄う俺に、朧はクスリと笑いながら素直に答える。
「君がいいならね?僕は嬉しいからずっと握っていたいくらいだよ!」
「あぁ、そーかい」
繋いだ手はそのままに、俺達は街へと繰り出した。
終
放課後のオバケ 冬生まれ @snowbirthday
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