11

「………」

「どうかしたの?」


放課後の教室で、オバケは不思議そうに声を掛けてきた。


「別に」


人の顔を窺う様に訊ねてきたオバケに一言だけ返すと、オバケは暫く黙り続けた後、不意に口を開く。


「でも最近、元気ないように見えるけど…なんかあったりしたのかな?」

「……」


視線を向けると、ぶらぶらさせている足を止め、ただ静かに俺を見つめ続けている。何かしらの返事を待っているのだろう。仕方なく溜め息混じりに答える。


「ハァ…大した事じゃねぇよ!」

「やっぱり何かあったんだね。もし良かったら話してくれる?」


訊ねてくるオバケから視線を逸らし、すっかり暗くなっていた窓の外を見つめると、俺はあの夢の話をした。


「最近、同じ夢をよく見んだよ。俺がおぼ…同級生をイジメる夢」


俺が淡々と夢の話をする中、オバケはただ静かに話を聞いていた。


「最低だよなぁ…。別にあんな公開処刑しなくったって良かったのによぉ?思い出すだけで胸糞悪ぃ……」


夢の内容に悪態吐くと、黙って話を聞いていたオバケが急に口を開いた。


「なんで…そんな事したんだろうね?」


静かに投げ掛けられた疑問に俺は俯き、苦虫をかみつぶしたように答えた。


「……知るかよ」

「その子が嫌いだったの?」

「わからねぇ…」

「その子に謝りたいと思う?」

「夢の話だ」

「後悔してない?」


その言葉にカッとして、俺は勢いよく立ち上がると椅子が倒れたのもお構いなしにまくし立てる様にオバケを怒鳴りつけた。


「うるせぇなぁッ…!今更後悔しても仕方ねぇーだろ!?終わっちまったモンはもう元には戻せねぇ…分かるか?いくら謝ったって許して貰える筈がねぇし、許されるわけがねぇーんだッッ!!アイツも…謝りたくても、此処にはもう居ねぇんだよ…ッ」


シーンと静まり返る空間で、ひとり息を切らせている俺を見つめていたオバケはフッと笑う。


「後悔…してるんだね」

「……るせぇよ」

「きっと大丈夫だよ」

「何がッ!!」

「そこまで悔やんで後悔してるなら、相手だって許してくれるさ!」

「ハッ。本人でもねぇ癖に…」


ハァと、溜め息を吐いて頭を掻き毟る。足をプラプラ揺らしながら『少しは気が楽になった?』と訊ねてくるオバケにフンと、鼻を鳴らしてやる。だけど最後に小さく『ありがとな』と礼を言うと、オバケは笑って良かったと口元を弛ませた。

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