10
いつもアイツは俺を見ていた。よく視線を感じてそちらを見ると、アイツはいつもそこにいた。熱を帯びたその眼差しはクラスメイトでも友人でも無く、それ以上の感情を孕んでいる事に俺は薄々気付いていた。
だからある時、アイツに罠を仕掛けてみたんだ……。
「なぁ、俺の事どう思ってる?」
誰もいない放課後の教室。アイツもとい、夢前 朧 【ゆめさき おぼろ】を呼び止めて、声を掛けると朧は明らかに動揺した面持ちで目を泳がせた。
「えっ…新生くん?何、急に…」
「んー?いつもお前が俺の事めちゃくちゃ見てっから気になってよぉ?」
「そ、そうかな……」
「おぅ。あまりにも見てくるから、てっきり俺の事が好きなのかと思ってさ!」
「……」
「違うのか?」
ジッと見つめてやれば朧は口を微かに動かしたが何も告げずに唇をグッと噛み締めた。話す気は毛頭ないらしく視線を逸らされる為、仕方なく俺は朧に近づき、その腰に手を回して体を引き寄せると勢い良く抱き締めた。
「……ッ!?」
体を強張らせながら驚きを隠せない朧の耳元に口を寄せて囁く。
「朧…俺、お前のこと好きだぜ」
そう告げると、朧の体はピクリと動いた。そしてゆるりと俺の背中に震える手を回し、微かに聞こえる声で囁いた。
「ぼ……僕も、だよ?」
耳まで紅く染めながら、恥ずかしそうに呟く朧に俺はニヤリと笑う。
「あぁ、やっぱりなぁ……」
そう言って腰に回していた腕を解いて離れると、朧は不思議そうに俺を見つめた。
「ククッ…」
「……どうしたの?」
クツクツと笑い出す俺に戸惑う朧が訊ねてきた時、朧の背後から俺の友人達が姿を現した。
「!?」
一瞬にして固まる朧に、オレは笑いながら告げた。
「ハハッ……ドッキリ大成功!」
「ッ……!!」
青ざめた顔で俺と奴等を見ながら、朧は小刻みに震えていた。現れた奴等は朧を揶揄い笑い物にする。
「お前、ホモだったのかよ!!」
「キメェ奴だなぁ!」
「ソイツの何処が好きなん?」
「男が好きとか可哀想な奴…ちゃんとタマついてんのか?」
散々馬鹿にされ続けて今にも泣きそうな朧と一瞬目が合った俺は、すぐに目を逸らしてこう言った。
「ハッ。マジでキモいな……お前」
その瞬間、アイツは絶望に満ちた顔で俺を見つめていた。
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