14

「おい」


季節は冬を越し、瞬く間に春が訪れた。俺は未だに放課後残ってオバケを呼んでいた。


「今日もいねぇのか……?」


再度問い掛けるが、状況は変わらない。辺りを見渡し、溜め息混じりに呟いた。


「冬休みも一日欠かさず来てやったつーのによぉ……」


文句を言いながらいつもの席に座った。よく足をプラプラさせながら、目の前で話を聞いていたオバケを思い出す。


「……もうすぐクラス替えだ。この教室に居るのもあとわずか。お前と放課後残って話すのもこれで終いだ」


静まり返る教室に俺の声だけが響いて消えた。それから辺りを見渡し、何も起こらないのを確認してから席を立つ。カツ、カツと足音が教室に響くなか、俺の背後からそれは聞こえた。


「新……生…くん」

「!?」


微かな声で名前を呼ばれた気がした。振り返ると、暗闇の中にオバケの姿があった。オバケはただぼんやりと立ち尽し、俺を見つめていた。


「お前……!」


すぐさまオバケに近付くと、オバケは申し訳なさそうに謝った。


「今まで会えなくてゴメンね……」

「たくっ、何してたんだよ。お前は地縛霊だろ?」

「僕にもよく分からなくて……でも、また会えて嬉しいよ」


オバケは微笑みながら告げる。俺もつられてフッと笑みが溢れた。


「まっ、これで最後だけどな?」

「……もう会えないんだね」

「おう」


寂しそうに俯くオバケに手を差し出す。


「…ん」

「何?」

「握手だっ!」


不思議そうに見つめるオバケに、俺は手を出すように催促した。


「はよしろ!」

「でも……」

「いいから!!」


躊躇うオバケに手を突き付けると、オバケは恐る恐る手を差し出した。その手は透明で触れられそうになかったが、気にせず掴む仕草をする。


「……触れられないのに」

「これでも握手してんのと変わらねぇだろ?」

「フフ。まぁね…」


オバケも俺の手を掴む仕草をすると、不思議と手を握られる感触がした。


「ホントに握られてるみたい……」

「お前もそう思うか?」

「君も?」


それはオバケも同じだったらしく、互いの手を触わり合う。


「わぁ。初めて君に触れられた!」

「最後の最後でコレかよ……」


オバケの手を握りながらぼやくと、オバケは俺の手を両手で包み込むように握り返した。


「僕は良かったよ。最後に君に触れられたんだもの…」


みると、オバケの躰は徐々に消えかけていた。


「お前…体が」

「うん」


オバケは何かを悟った様に、俺の顔を見つめながら笑顔で告げる。


「今まで楽しかったよ。こんな“オバケ”に付き合ってくれてありがとう……」

「あぁ。俺もだ」


じゃあな────そう言おうとした時だ。オバケの顔が一瞬、口の上から頭までハッキリと目に映る。


「じゃあね、バイバイ!」


別れを告げたオバケは既に見えなくなっており、俺はその時初めてオバケの正体を知った……。

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