5
「おい。帰ったぞ!」
教室に入るなり、すぐさまオバケを呼んだ。スゥといつもの様に現れて体育座りをしたまま机上に座るオバケは此方に顔を向けている。
「お帰り…修学旅行楽しかった?」
「まぁな!」
俺はオバケのいる前席の椅子を引いて座る。それから修学旅行の話を聞かせてやった。オバケは今日も楽しそうに聞いている。
「──そう、とても楽しかったんだね」
「おう。だからお前も連れて行けば良かったと思ったわ!」
「ハハッ…まだ言ってた。だから無理だってば!」
笑うオバケを余所に、俺は懐から小さな紙袋を取り出した。オバケはそれに気付くと笑うのをやめて紙袋を見つめる。
「それは…?」
「言ったろ?土産買ってきてやるって」
ほら、とオバケに差し出した。
「……」
「いいから受け取れ!」
目の前の紙袋に何を躊躇っているのか、オバケはなかなか手を出して来ない。
「どーした。はよ受け取れ!」
「いや、その……」
「いいから!」
無理矢理オバケの手を掴もうとしたが、オバケの手は俺の手に触れる事なくすり抜けた。
「……ッ」
「やっぱりね。こうなると思った。僕には椅子が引けなかったから……」
ゴメンと顔を俯かせるオバケに、俺は手に持つ紙袋をゆっくり引っ込める。
あぁ、そうだった。
コイツには触れる事が出来ない。オバケだと知っていた。視覚で判断していたのに……。ソレがいざ本物だと知ると、ショックで暫く言葉が出てこなかった。少しばかり沈黙が続いた。俺は項垂れていてオバケの反応は見えてなかったが、暫くすると先にオバケの方が言葉を発した。
「でも、嬉しかった。ありがとう」
顔を上げると、オバケはいつの間にか体育座りをやめて足をプラプラと遊ばせた後、ピタリと止める。
「君の気持ち…それだけで十分だよ?」
オバケの言葉に俺は目を見開いた。それは何処かで聞いたセリフだった。前にも誰かに言われた様な────アレは……?
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