第11話 なぜ
「――ミユキ?」
ハッとして顔を上げると、隊長が心配そうにこちらを見ていた。
確かにあの時、イチさんに刺され、全てが暗闇に消えたはずだった。
痛みも、冷たさも、すべてが鮮明に残っている。
それなのに、今こうして生きている――どうして? なぜ、此処に?
問いかけても誰も答えない。
それを知る人は誰一人いないのだから。
隊員たちは何事もなかったかのように雑談を続けていた。その姿が妙に遠く、別の世界にいるように思えた。私だけが、あの冷たい死の感覚を知っている。
「どうした?」
私はすぐに笑顔を作り、私は隊長へ言った。
「いえ、ちょっとボーっとしてしまいました。すいません。」
隊長は慌てて言った。
「否、謝ることじゃない。そうだな、少し早いし休憩をとるか。」
思いついたかのように、隊長は言い、おーい、と隊員たちへ声をかけた。
そして、その後、反国組織の頭領と遭遇して、すべてを聞かされた。
黒髪の青年が、私をじっと見据えた。その視線に、思わず背筋が凍りつく。
彼は私に、再びあの真実を突きつけようとしているのだろうか。
結局、私はすべてを告げられた。
彼は一文一句寸分違うことのない言葉を言った。
あれは夢なんかじゃない。
現実だと、頭の奥がはっきりと告げていた。
私がこの現実に立ち向かわなければならない理由が、そこにあるのだ。
隊長の声が、現実に引き戻してくれるようだった。彼らは私にとって、暗闇の中で灯る小さな光のような存在だった。
そうして私は、イチさんの執務室へ向かった。
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