第12話 空虚な瞳

「イチさん」

 イチさんが、こちらを向いた。

 イチさんは、日常会話の続きを話すような無表情で私を見ていた。

 その瞳には、暖かさも冷たさも感じられず、ただそこにあるだけの空虚なものに思えた。

 イチさんは何でもないことかのように言った。

「ああ、丁度良かった。貴方に諸用があって、呼び出そうと思っていたところなんですよ。」

 また殺されるかもしれない。

 でも、やるしかない。

「うふ、怖がらないでください。ちょっと痛むだけですから。」

 鋭い痛みが腹を貫き、体が硬直した。血が服を伝って冷たくなっていく感覚が、死への恐怖をさらに募らせた。

どうして、イチさんが…。

 信じたかったけれど、その信頼がまた冷酷に裏切られるなんて。

 体が冷えていく中で、私の心も深い闇へと沈んでいく気がした。

 結局私は殺されてしまった。

 どうして…どうしてあなたが…。

 問いかけようとした唇からは、もう声は出なかった。

 視界がぼやける中で、ただ彼の涙だけが最後に残った。

 イチさんは涙を浮かべながら、どこか遠い目をしていた。その視線には、私には届かない暗い闇が潜んでいるように思えた。

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