第2話 この世界
にこやかと告げたイチさんはとても晴れやかなものだった。
どんな依頼なのか…と固唾をのんで、次の言葉を待っていると、イチさんは言った。
「ああ!大変!大切なお客様にお茶も出さないなんて!すみません、もう少し待っていてください!」
「え?あ、はい……」。
私は近くにあった椅子へ腰をおろした。
ことり、と紅茶が置かれた。
口に含むと、ほんのり甘酸っぱくて、まるで熟したベリーのような香りが口いっぱいに広がった。
不思議なフルーツの余韻が、いつまでも続いているようだった。
恐らくなにかフルーツを茶葉にしたものだろう。
とても美味しかった。
「それ、美味しいでしょう。プリュの実から作った茶葉なんですよ」。
今までにこやかに接していたイチさんの瞳が開いた。
夜空のような、綺麗な瞳だった。
「却説、依頼ですが、とあるバケモノをもとの世界へ返してほしいのです。バケモノが最近なぜか増えてしまって……」
イチさんは困ったように眉をハの字にした。
イチさんは続けた。
「バケモノは鏡を通してこちらの世界にやってきます。なので、返すときも鏡を通じて返せばいいです」。
イチさんは椅子から立ち、大きな姿見の前に行った。
鏡を通して送り返すなんて、聞いたこともない方法だ。
こんなことで本当に元の世界に戻るのだろうか――妙な不安が胸の奥に残った。
「これは私が保護したバケモノです。これを鏡に押し付けると――」
バケモノは鏡に吸い込まれるように白い光に包まれ、まるで空気が抜けるように縮んでいった。
その形がどんどん小さくなっていく様子は、まるで魔法のようだった。
「このように、姿が小さくなるので、どのサイズでも大丈夫です」。
イチさんはにっこりと微笑んでいたが、その笑顔にはどこか含みがあるように見えた。まるで、こちらの知らない秘密を楽しんでいるかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます