第6話 適正魔法

 手をかざしてみたり、呪文を唱えてみたり。火の魔法を試した時は、ほんの少し熱を感じただけだったけれど、光魔法を試した瞬間、指先から柔らかい光がふわりと広がった。

「あ、」とさぁちゃんが声を上げた。

「光魔法が一番適性があるみたい!すごいね、みゆきさん!」とさぁちゃんは、楽しそうに目を輝かせながら教えてくれた。

 「すごいね、みゆきさん!」と、さぁちゃんは思わず拍手しそうな勢いで笑顔を向けた。

 その顔はまるで小さな子供が新しいおもちゃを見つけたときのように嬉しそうだった。 その後、水魔法を試したら、 水の塊がふわっと集まると、小さな猫の形になった。丸い耳や揺れる尻尾が可愛らしく、透き通るように輝く水の猫がぴょんと跳ねた。「わっ!かわいいっ!」さぁちゃんは嬉しそうに言った。

 光魔法と水魔法…。何だかまだ信じられないけれど、それが私の力だと言われると、心の中がふわりと浮き立つような気持ちになった。知らなかった自分の一面を見つけたみたいで、少し誇らしくも感じる。

 「私に…光の力?」まだ信じられなかったけれど、この新しい力を使って、何かできるかもしれない…そんな気がしてきた。

 『じゃあ、これから一緒に光魔法と水魔法を練習していきましょう!』と、さぁちゃんが手を差し伸べてくれた。まだ全然自信はないけれど、新しい力を試してみたい気持ちがふくらんでいく。

 後にイチさんに聞くと、光魔法の適性がある人は、希少率が高く、どの国・どの地域でも重宝されるらしい。

 逆に水魔法は、簡易的な魔法で、異界から来た人も簡単に使いこなせるらしい。

 私が適正のある、と判断されたのはこの2つだった。

 全くの真逆。

 希少で重宝される光魔法と、誰でも使える簡易的な水魔法。その二つが私の適性だなんて不思議な気持ちだけど、それでも、どちらも自分の力だと言われるとやっぱり誇らしい。

 正解はわからないけど、それでも、なんだか誇らしかった。

 今日は初めての任務。何をすればいいのか、どんな状況が待っているのか全くわからない。

 でも、ようやく異世界で役に立てると思うと、心の奥に少しだけ期待が膨らんだ。

 さぁちゃんは、普段の柔らかな笑顔を消し、真剣な目で『絶対に光魔法を使わないでください』と念を押してきた。

 その表情があまりにも切実で、思わず息を飲んだ。

 さぁちゃんの顔には、滲むような不安が見え隠れしていた。『みゆきさん、本当に絶対に光魔法を使わないでください。…お願いです。』普段と違うその様子に、私も緊張が伝染したようで、背筋がぞくりとする。

  さぁちゃん曰く、拉致られる可能性があるらしい。

 光魔法を使えば拉致される可能性があるなんて…。その言葉に思わず身震いした。この世界での『希少な力』が、ただの誇りだけでは済まされない重荷だということを実感させられた。

 光魔法が重宝されるといっても、それが他人に狙われる理由になることに気付かされた。

 ここでは、力を持つことがどんな意味を持つのか、少しずつ理解していかなくてはならないらしい。

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