第9話 景色

 頭の中に流れ込んできた映像は、血の色に染まった空間と人々の叫び声、そして無慈悲に命が奪われていく瞬間だった。胃の奥がねじれるような不快感が押し寄せ、思わず目を逸らしたくなった。

 彼は語った。この国のこと。

 彼が担当した1/2番街は家畜――ラピシャスに喰わせるための人間を育てる場所が多くあったこと。

 そして、今私の脳内に流れてきた情景は、その肉となるシーンだったこと。

 イチがこの家畜化を図っていること。

 すべて話してくれた。

 俄には信じられなかったけれど、彼は実際に見たように、順序立てて説明していたし、さぁちゃんや、ニさんが話していた内容と重なる部分もあった。

 なにより、私に流れてきた情景がすべてを物語っていた。

 まさか、イチさんが――……。

 戸惑った。

 もしこの事実が公に広まれば、人々は必ず立ち上がるだろう

 。怒りや悲しみが抑えきれないほど積み重なっているのだ。

 それが暴発するのは、もはや時間の問題かもしれない…。 

 今、起こってもおかしくはない状況だった。

 聡明で穏やかで、人々に希望を与える存在のはずのイチさんが、なぜ…。

 彼が何を考えているのか、理解しようとすればするほど、その理由が見えてこなかった。

 なのに、どうして。

 あなたは、一体何を見ているの?

 何を考えているの?

 あの優しく微笑むあなたの顔の奥に、こんな残酷な計画が隠されていたなんて…信じたくなかった。

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