第10話 どうして、どうして
宿舎に、戻ったあと、イチさんに呼び出された。
「こんにちは。任務でお疲れでしょう。反国組織に遭遇して大変だったでしょう。」
イチさんは、いつもとかわらずに、笑っていた。
けれども、どこか隠しているような動作があった。
「――矢っ張り駄目ですね。」
「え?」
聞き返そうと思った。でもできなかった。
「ど…して、」
「どうして、ですか。そんなの決まっているじゃないですか。もう二度と裏切られないためです。」
「裏切られる前に殺す、それが私のモットーですから」
腹に鋭い痛みが走った。信じられない、イチさんが…。混乱する思考の中で、薄れていく意識が痛みと共に体を支配していく。
「失礼しまぁ――ッ!?」
さぁちゃんの声が聞こえた。
『ごめんね、ミユキちゃん…!』と、さぁちゃんは声を震わせていた。
その表情には、言葉では言い表せないほどの後悔が滲んでいた。
彼女の涙が、私の頬にポツポツとこぼれ落ちていた。
私こそ、ごめん。
さぁちゃんにそんな顔させて。
でも、さぁちゃんのせいじゃないよ。
指先から体温が消えていくような感覚がした。
「サン、見てしまったのですね。無駄な被害はうまない予定でしたが、仕方ない。」
「――ッ!」
さぁちゃんは、声を上げる暇もなく、殺された。
「みゆきさん、さよなら。」
イチさんの剣が私の首元に向けられ、次の瞬間には冷たい涙が彼の頬を伝っていた。
冷酷な言葉とその瞳に浮かぶ悲しみが、私の混乱を一層深めた。
「どうして、どうしてこんなことを…。」問いかけたかったのに、声は出ず、意識が薄れていく。
イチさん、あなたが泣いているのは、どうして?
視界がぼやけ、すべての色が混ざり合う。暖かかった指先から温もりが抜けていく。さぁちゃんの涙、イチさんの涙、そのすべてが闇に溶けて消えていく――。
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