第14話 仙道とは!

「ひよりに分かりやすく書くと…」


葛の葉はホワイトボードに書き込んでいく。


―――――――――

仙道とは!

論外:一般人(何も感じない)

――無意識に使用する者も

入門:覚醒者(気脈を感じるだけ)

初心:気功家(気脈を操る・体力消耗が激しい)

――仙道の壁・老化が止まる

下級: 半仙(気脈を昇華し仙気を体内に留める)

中級: 真仙(魂魄で仙気を練れる)

上級: 神仙(術理を操り仙術を扱う)


気脈→昇華→仙気→魂魄→真仙気


仙具:仙術を再現する道具・仙気があれば使用可能

仙術:様々なことが出来る術(個人差あり)

―――――――――


「お~!わかりやすい!(よかった仙人だった!)」

「他と比較できるからのう。では続きを説明するぞ」


喜んで拍手しているひよりに気を良くしたのか、声の調子が上がっている。


「『真仙』の仙気を練るという行為は、気脈から昇華した仙気を魂魄に食わせ自分に最適な仙気を得ることを指す。本来区別なんぞせんのだが、ここでは真仙気と記載しておる。こいつは仙気よりも強い力を発揮しよる」

(男子が好きそうだなあ…)

「昔は真仙気でなければ仙術のみならず仙具も使えなんだが、近年仙気でも使用可能なものが現れた。嘆かわしいことに、若造どもは『真仙』を目指すことなく仙具造りに精を出すようなったのだ」


「近頃の若いもんは」と老害じみた発言をしだす葛の葉。

ひよりは最近の若者の心境だったので「うわ…」とひいていた。


「しかし多量の仙気が必要な仙具は真仙気でなければ動作せぬ。新技術で造られた仙具も変わりはせぬ。なればこそ……次におぬしが目指すべきは『真仙』じゃ!」

(異界留学の必要性が……)


このまま流されてはここで修行しろと言われかねない勢いだ。

ひよりは両手を握り意を決っする。


「あの…とっても為になったんですけど、仙界に異界留学してから習う予定なので、そろそろ修学旅行に戻りたらなあ?とか、あはは……」

「仙界に行く予定なのか…彼方には、わっちの縁者もおるでな、面倒みるよう声掛けしておこう」

(仙界にいる人も押しが強いのかな…?)


縁者とやらに若干の不安を感じはする。

しかし、ようやく解放されるんだと、晴れやかな気分になっていた。

これから三人で集合写真撮って楽しい修学旅行だと楽しい未来を想像し、表情を緩めた。

目の前の葛の葉と思いが繋がったのか両者笑顔で頷いた。


「だがひよりよ。昇華がそのままではまずい」

「へ?」

「余りもつといのだ…周囲を巻き込み危険に晒しかねん。一時ここで鍛錬して行くがよい」

(あっあっあっ……)

「なあに、わっちらは仙道。気脈さえあれば飲食どころか睡眠なんぞも不必要。近頃やることもなく暇を持て余しておった所よ、気兼ねなぞせんで良いぞ!」

(なんでぇぇぇええええ!)


葛の葉との鍛錬で昇華の熟練度が上がった!



「お~い、ひより!十分も遅刻とか何処行ってたんだよ~」

「ホントですわ心配したんですよ?」

「ご、ごめんね。二人とも」


麗奈が「あら?」と違和感に気づく。


「ひより、なんで髪型変わっているんですの?」

「あ~、言われてみればさっきまでと違うな」

(流石に葛の葉さんの仙術で二年以上鍛錬してたとか言えない?!)


目を見開いて最もらしい言い訳を瞬時に脳内へ張り巡らせる。


「えっとね。スタッフオンリーのとこに入っちゃったんだけど、そこに居た人の押しが強くて……」


何も思いつかなかったので真実を掻い摘んで話した。

もうどうにでもなれ「ははは」と空笑いしている。


「ひよりならそんなこともあるか~」

「まあ、ひよりですしね?」

(納得されるのも複雑な気分なんだけどおおお!)


若干納得いかないも、根掘り葉掘り聞かれても困るので、笑って流した。

そのまま三人で記念撮影をし修学旅行ルートへと戻る。

その後に他寺社もまわったが、仙道に会うこともなく地元へと帰郷するのであった。



「これは珍しい客人が来たな」


雪のように白い艶やかな毛並みに朱い模様の狐が眼を広げて発した。


「見込みある者に会ったでな」

「……ほう」


麦穂のような金の毛並みに漆黒の河流を描かれた狐が相対する。

互いの尾は九を数え最高位の狐だと飲み込めた。

二狐の会談にはこれまで齟齬などなく、互いの関心が均しいものだと認識していた。


「目覚めてひと月も経たず独力で、わっちの陣内にて二年ほど活動しおったぞ」

「っ!若人が陣内にてそれほど動けたというのか……俄かには信じがたいが、君が言うのなら本当なのだろう」

「半年で昇華が及第点まで育った。時間さえあればと口惜しいものよ」

「昨今の現世との関係性では、受容できずとも仕方あるまい。しかし君の及第点にそこまで達するとは……」


態勢に不満を持つもの同士、通じ合うものがあったのだろう。

才能があろうとも仙道への道を選ぶものは、年々減り続けている。

いや、その道を選んだところで、楽に術を体験できる仙具造りに重きを置いてしまう。


誰でも同じように使用できる…大変結構なことである。

しかしそれだけでは古より存在する強大なる仙具を用いることはできない。

そして新しき真なる仙術が開花することもないのだ。


「わっちは今回で見切りを付けようと思うておる」

「……そうか」

「これまで数多の神仙が旅立った。しかし現世では誰もわっちらの助けなぞ必要としてはおらん」

「……まだ必要とする現世もある」

「分かっておろう?故郷外なんぞ感傷もおきん。此度を最後の介入とする」

「それほどの逸材である……か。手を回しておくとしよう」


まだ見ぬ最期の時を二匹の狐は夢想していた。

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