第18話 仙界でも縁故採用が強い

部屋の雰囲気も落ち着き、芒野原が司会進行することになった。


「では気を取り直しまして、ひよりさんの修行先にと『八老仙君』から三仙が手を挙げられました。先ほどの動画でも説明がありましたが、仙界における八大仙派の頂点に立つ方々を、尊敬の念を込め『八老仙君』と呼んでおります。今回挙手されたのは向かって右から――」


――『続造房』万具真君

仙界における仙具造りの第一人者

近年の仙具発展は彼の功績によるところが大きい

仙具造りに力を入れたいのであればこちらに


――『万雷郷』万雷道君

仙界の最古参が一仙

長年の知識や人脈であちこちへと顔が利く

目指す所をまだ決めてなけばこちらで多方に手を伸ばすのも


――『崑崙山』傾世公主

仙界でも歴史が古い仙派

先達から受け継がれてきた術理への深い知識あり

術理をより深めるのならばこちらで


「――このようになっております。では御三方から補足等ありましたらお願いします」


この説明に、やはり凄い仙道達なのだと、ひよりは認識を深めた。

黙ってさえいれば、凄そうなオーラが漂っていおり、威厳にあふれている。

そんな三仙から追加で話があるかも知れないのだと固唾を飲む。


「目覚めて間もない、若い娘さんと聞いていたが大丈夫そうだしよかった!仙具で分からないことがあれば遠慮なく聞きに来てくれ!」

(ん?)

「そうじゃな。まさかとは思ったが、ここまで鍛えられておるのなら下手な転換をすることもあるまい。困りごとであれば同郷の幸に気兼ねなく相談するがよい」

(あれ?)

「御二方に納得してもらえてよかった。伝聞だけであった故、確信が持てず、ご足労いただき感謝する」

(そういえば声かけしとくって……)


芒野原の言葉に三仙派それぞれで体験学習するのかと思っていた。

だが三仙の言葉から、葛の葉の「縁者が~」という記憶が浮かぶ。


「がはは!期待の新人に会えたのだ気になどせんわ!もし崑崙山が肌に合わなければ、我らが続造房にくるとよい!」

「お主の所だけはありえんじゃろ?」

「んな?!なにをいう!」


言い争う二仙のやり取りを背景に、傾世公主が近づいてきた。

もっふもふの尻尾がたまらない。


「あらためて崑崙山現教主、傾世公主だ。よろしく頼む。葛の葉とは浅からぬ縁で先日、君の事をそれとなく伝えられていた。ふふ、久々の大物新人に年甲斐もなくはしゃいでしまったよ。なんでも遠慮なく聞いてくれたまえ」

「はい…お願いします」


早く終わらせて欲しいと願っていた。

だが自分の意思を超越した決定で話し合いが早期終了しても、もやもやとした気持ちが残留するのであった。


(ふりでもいいから意思確認してよおお!)



言い争っていた二仙は「ではな」と早々に退室していった。

残ったのは傾世公主と芒野原、ひより、そして万具真君についてきた豊満な胸元の銀髪ポニテのお姉さん。


「わたくし万具真君が末弟シュウと申します。短い期間ですがよしなに」

「私は万雷道君が末弟幸です。同じくお願い致します」

「いや、君たちには感謝しかないよろしく頼むよ」

「ひよりです。よろしくお願いします」


良く分からないが挨拶が始まったので、とりあえず自己紹介した。


「ひより嬢。今回、彼女たちは君の修行に混ざることとなった。歳も近いし仲良くするといい」

「傾世公主様。ひよりさんはまだ15です。勘違いなさるかと」

「ん?そうかすまん。下から数えたほうが早いのでな」

「わたくしは齢70程で仙人としては若輩ですが人の世では老婆です。若者の流行りは幸にしてね」

「待ってください…私も46です。十代の流行はちょっと……」

「あはは…(二人とも10代後半で違和感ないんですが?!)」


シュウは悪戯に笑う。

「ちなみに万具真君は八老仙君最年少です」

あんまりな事実に絶句するひより。

先ほど退室した二仙の年齢が「若者>中年」で年齢認識が崩壊しかけている。


「見た目なんぞ仙道になった時期程度の意味しかない」

と傾世公主が強引にまとめ、修行場へと移動するのであった。



修行は森林にて行われた。

なんでも葛の葉から引き継ぎがあったらしく、『見気』を全く鍛えていないので基礎から頼まれたらしい。


『見気』とは読んで字のごとく仙気の知覚だ。

ひよりとて、それのみに集中すれば知覚することは出来る。

だがそれでは意味がない。

常在にあって知覚することこその『見気』と呼べる。


傾世公主の講釈に、仙女二仙は自らが通った道と懐かしがっていた。


(ひぃい…なんも見えないよおお…)

ひよりは目隠しをし、歩きながら二仙の居場所を探る。

最初は木の根に躓いたり、立木にぶつかった。

そんな中でも時折、傾世公主から指導が入り改善される。


(見えないのに見る…)

繰り返す中、徐々に二仙の距離が離れるも、知覚が広がる。

目で見ずとも木の根を跨ぎ立木を躱す。

亀の歩みから兎のごとき跳躍へ。


(凄い…世界が広がったみたい…)

わずか二十五日を以てしてひよりの『見気』は実用へと成り上がる。


「これが才能というものですか……」

「わたくしが年をかけて行った行程が、ひと月に満たないとは」

「聞きしに勝るとはこのことだな。よくやった」

(えへへ。才能あるのかも)


ひよりは皆からの褒められっぷりに鼻高々になった。

もう調子に半身でしがみ付きながら乗ろうとしていた。

傾世公主はそんな彼女の内心を察知する。

……鼻歌まで歌っていたので丸わかりだ。


「ひより嬢、君は才能あふれて早熟だが、長年修練を続けた者に比べれば稚技でしかない。若輩な二仙だって今の君よりも習熟している。よいか?常に精進することを忘れてはならんぞ」

「あ、はい」


しっかり釘は刺された。

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