異界仙路
まーしゃ
私のはじまり。
第1話 能力診断
新年度から少し経った4月9日の午前9時過ぎ。
例年行事である能力診断のため、中学3年生になった30人程の子供たちが体育館に集められていた。
「どーせ、大した能力なんか出ねぇんだから、さっさと終わらせて欲しいぜ」
「んなこといって、昨日の夜は『スゲー能力だったらどうしよう?!』とか騒いでたんだろ?素直になれよ!」
「んなっ?!何で知ってるんだよ!」
「お前の妹に、ウザかったから強がってたらバラしてくれ、ってメッセきてたんだよ」
「なんだーあ?また耕太の強がりかよ」
「よっ、ツンデレ!」
「ち、違うんだ…これにはカンダイメーセーな理由がー」
「またテキトーなこと言って」
本来ならば、既に開始していたはずの能力診断だが、何かトラブルがあったらしく、開始予定から30分近く経っている。
しかし、遊びたい盛りの子供たちにとって、ふいにできた友人との交流時間は、歓迎すべきものであり、内心ではトラブルの延長を望んでいた。
そんな大小様々なグループに分かれた空間に、3人の少女が集まっていた。
「男子は元気ねぇ。わたし、ちょっと寒くなってきたわ」
「まだ肌寒いからなー」
背中まで伸びたロングストレートが特徴的な「八木崎 麗奈」に、活発な雰囲気の「桜井 夏海」が答えた。
そしてもう一人、話を聞いているのかいないのか、ボーっとしている「逆井 ひより」彼女をあわせた3人組は、小学校からの友人のいつメンである。
「これならジャージはいてくればよかったわ…」
「すぐ終わるだろうからって油断した。教室に戻った奴らが羨ましいぜ」
「今からダッシュではいてこない?」
「お、いいね。体も温まって一石二鳥ってやつだ」
「ひよりもそれでいい?」
「……」
「って、またか。おーい!起きろひより!」
「さっきまで頷いていたから油断したわ…」
そう言いつつ、ひよりの肩を揺すりながら呼びかけた。
「んぇ?寝てないよ、考え事してただけ」
「はいはい、いつものね」
「そのうち不審者に誘拐されそうで心配なんだが…」
2人の呆れた様子に心外だと、ひよりは薄い胸を張って反論する。
「ちゃんと聞いてたよ!親戚の子が『コピー』能力だったて話でしょ」
「それは一個前の話よ」
「今はトイレに行く相談してたんだぞ?」
「じょ、冗談だって!はやくおしっこいこう!」
目を左右に彷徨わせながら答えるひよりに、2人はニヤニヤしながらからかいはじめた。
なぜそんなことをするかというと、小柄で可愛らしい彼女のころころ変わる表情を見たいからだ。
「ん~残念!正解はジャージをはきに行くでした!」
「やっぱり聞いていなかったじゃない」
夏海はクイズ番組の司会者のように、麗奈は外国人のように大げさに肩をすくめるリアクションをとった。
それを見たひよりは、目をまん丸に広げ何かをつぶやこうとし……
「準備できたぞー!出席番号順に並べ―!」
スピーカーから流れる学年主任の声で押しとどめられた。
「うおらー、くっちゃべってないでさっさとしろ!昼までに終わらんぞー!」
いつの間にやら9時半になっており授業の遅れを嫌ったのか、強めの口調で話している。
それを聞いた生徒たちは渋々整列しだす。
「むうぅ…」
「ごめんごめん、終わったあとで話しましょ」
「そんな可愛い顔しても怖くないぞ」
口を膨らませたひよりをなだめながら3人も列へと進んで行くのであった。
数分で並び終えた生徒たちを確認し、能力診断が始まった。
「説明しといた通り、職員の指示に従うんだぞ。終わったらそのまま教室に戻って静かにしてろよ。それじゃ、1番の相澤から入れ」
学園主任の号令から徐々に列が進んで行く。
専用の診断車両に一人ずつ乗車し、結果が出たら交代していくシステムで、毎回2~3分程の待ち時間がある。
比較的順番になるのが早いひよりと夏海は専用車両の近くで話していた。
「ひよりぃ、からかって悪かったってば、機嫌直してくれよー」
「なっちゃんのことなんて知らないもーんだ」
「オレの能力だって教えてやるからさ!ほらっ、このとーり!」
両手を合わせて拝みだす夏海に対し、ひよりは「仕方ないなあ」と返答する。
本気で怒っていたのではなく、友人特有のコミュニケーションであり、気心の知れた間柄の証明でもあった。
2人がじゃれあっていると、ひよりのひとり前の男子が車両から降りていき少し間をおいてから「逆井 ひよりさん、お入りください」と車前で名簿を持った男性職員から呼びかけられた。
「はーい」と答えるひよりの背中に向けて夏海が語り掛ける。
「診断終わっても少し待っててくれよ。一緒に連れションしてから戻るんだからな」
「わ、分かったから人前でそういうこと言わないで!」
男性、しかも知らない相手の前では流石に恥ずかしかったのか、ひよりは顔を真っ赤にしながら乗車する。
苦笑いした男性職員と嬉しそうな夏海の「仲が良いんだね」「親友なんです」との掛け合いに背を押されながら。
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