第8話 面接は第一印象が大事
「おう、じゃあそこに座ってくれ」
「し、失礼します!」
ひよりは強面の学年主任が指示するまま着席する。
問題を起こした生徒が呼び出されるとの噂から、刑事ドラマで見る取調室を思い描いていた。
しかし実際に入室すると、奥には革張りのソファーが鎮座し、その手前には横長のローテーブル、対面には教室の木製椅子は違い、クッション入りのデスクチェア。
予期していた圧迫感など微塵も感じさせない部屋だった。
予想外の内装に目を彷徨わせる。
「なんだ、ここに入るの初めてか?」
「あ…はい。そうです」
「ま、それもそうか。3年以外には関係ない部屋だからな。今年は進路相談で何度か使うかも知れないから、今のうちに慣れておけよ。あ~あと他の生徒に中の事を言いふらすなよ?肝試し感覚で入ろうとする奴がいて迷惑なんだ」
「言いふらしません……」
「うし、本題に入るか」
(ひぃいい!お、怒られる?!)
反射的に肩をすくめてうつむく。
そんなひよりに学年主任は気の抜けた声をかける。
「あ~、勘違いしてるようだが、遭難やら学校を休んだ件について、オレからとやかく言うつもりはない。そういった事は警察やら親御さんから散々注意されて反省しただろ?大したことなかったとか、余計な事しやがってとか、迷惑かけた方々にたいして馬鹿なことを言わない限りは……だがな」
「い、言ってません!」
「ならいい。オレだって昔は大人に迷惑かけたもんだ」
(ドス持ってかち込んでそうだもんね……)
「大事なのは繰り返さないことだと覚えておけよ」
「はい!」
「んでだ、お前異界留学の面談申請しただろ?先方がな…たまたま担当者がこちらにいらっしゃってるらしくってな、すぐにでも個人面談できるそうなんだが、面談の練習なんてしてないだろ?」
叱られるとばかり思っていた所に、全くの別方向からの話題が湧いてきて当惑してしまう。
頭の片隅どころか、案内に記載されていた記憶もない。
「えっと個人面談ってなんですか?進路案内に乗ってなかったような……」
「お前マイページの確認してないだろ。大変だったのは分かるが毎日確認しとけ」
「……ごめんなさい」
「保護者との面談前にだな、お前と受け入れ先の担当者で事前に面談するんだよ。ぶっちゃけるが、その時の結果で受け入れ合否が決まるからな。保護者込みの面談なんざ、持ってく物と実費でいくら必要なのかと質疑応答があるだけだ」
(や、やばい…親と一緒に話するんだと思ってた!)
「こっちにきてる先方を待たせると悪いからな、今日中に基本だけ詰め込んで、さっさと個人面談終わらせるぞ」
(きょ、今日中?!)
学年主任は前科を疑われてもおかしくない凶悪な笑みを浮かべる。
「な~に大丈夫だ。オレの指導は学校一だって評判なんだぜ」
ニチャァアア
(だ、誰か別の人に変えてええええ!)
◇
給食
「このために学校に来ている」と豪語する者が出る程の時間だ。
歴史を紐解くと、子供の健康のためにと学校ごとにある調理場で作られていたが、それでは効率が悪いと外注に出して経費削減するようになる。
しばらくはそれで問題なかったのだが、売名のために原価ギリギリで入札する暴挙を起こす会社が現れた。
当然のことながら相場変動に耐え切れず、給食停止校を多数だしてしまう。
それを皮切りに、外注から市立や県立の給食センターへの移管が進み、食事内容の改善にも繋がる。
が、また忘れたころに経費削減のために民間企業に払い下げられ…と何度も歴史を繰り返したのは人間の愚かさが成せる業だろう。
そんな由緒ある時間に、上の空で箸を進める少女…ひよりである。
「麗奈、ひよりになにがあったか聞いてくれよ」
「どうしても気になるなら自分で聞きなさい。それに午前中はずっと学年主任に捕まってたんだから、そっとしてあげるのが優しさよ」
「そっか…そうしとく。」
「そうしなさい」
「それにしてもこの肉美味いな!何の肉だ?」
「異界産の養殖モグラらしいわ」
「まじかよ?!」
(とりあえずオッケー貰えてよかった~)
友人の会話を聞き流し、学年主任と2人きりでないのだと安堵していた。
たしかに合格は貰えたが、結局のところ最低ラインを超えたに過ぎないと、面と向かって忠告もされた。
(あの顔の前より緊張なんてする訳ない!)
とんでもなく失礼だが、他の生徒からも同じ感想がでるだろう。
(よーし!どんなに早くても明日だし、家に帰ったら復習しよーっと)
給食も食べ終わり、上機嫌になったひよりは気分転換に校舎でも歩こうかと、教室を出る。
目の前には学年主任だ。
「おう逆井、付いてこい」
(なんでええええ!)
「昼休みなのに可哀想…」と同級生達から憐憫の視線が向けられた。
顔が引きつらないように後を追う。
行先は前回と同じ生徒指導室だった。
促されて食事前と同じように座る。
「よかったな、担当者に連絡したら昼一で来てくれることになったぞ」
(対応早すぎだよおおお!)
ひよりの驚愕を無視して言葉を続ける。
「内容を忘れないうちに実施できるんんだ、最高のタイミングだろ?不安なら今から、おさらいでもしてやるから心配するな」
「よ…よろしくお願いします」
学年主任に頭を下げ、残った時間を個人面談の対策に費やすのだった。
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