第3話 能力診断3
「ふあースッキリした」
「なっちゃん、生まれたての小鹿みたいだったもんね」
危機的状況を脱した、ひよりと夏海は、教室へと戻っていた。
「しゃーないじゃん。あんな寒いところで1時間近く待たされたんだから」
「だからって便器の蓋まで代わりに上げさせないでよ…」
「前かがみになったら漏れるかもしれなかったの」
「もう…」
ひよりは呆れ顔で夏海を見やるが、どこ吹く風と上機嫌な様子。
これ以上言っても無駄だと判断したひよりは、封筒へと話題を変える。
「とりあえず、封筒開けてみるね」
「あっ、それなんだけど、開けるの後にしない?」
またしてもの開封阻止に「なんで?」と疑問を投げかける。
「麗奈と3人で確認しよ。仲間外れみたいになって嫌じゃん」
「あ、うん。たしかに!」
「だろ?一緒に見たほうが楽しそうだしな!」
そんな会話をしていると、2人は教室に到着し、引き戸を開けた。
思っていたよりも静かな室内に首を傾げ、黒板に目をやった。
”自習↓やっとけ 残りは宿題”
黒板前の教卓上には、数学の計算問題が印刷されたプリントが鎮座している。
「ざっけんなよ…」
「問40まであるって多すぎだろ…」
「宿題なんかしたくない…」
先に戻っていた生徒の呪詛が木霊した。
教室で能力について騒ぎ立てないように、両面印刷された凶器が用意されていたのだ。
「マジか…ホントに40問あるぞ」
「両面印刷とか正気じゃないって…」
昨年までの数学担当教師はゆるい感じで生徒から人気があったのだが、今年度から他校へ転勤し、代わりにやってきた教師は、生徒の限界を目指すようなスパルタで忌み嫌われていた。
自習という時間は、自由で楽しくなければいけない。
そんな生徒の心を踏みにじる悪鬼の所業。
新たに2人も呪詛の中に組み込まれ頭を抱えた。
更に数人が呪詛に組み込まれた後、救世主が還ってくる。
「手分けして問題解いて写せばよくね?」
その言葉にガバッ!と机から顔を上げる。
「その手があったか!」
「耕太お前天才か?」
「妹にバラされてザマァとか思ってごめん!」
「3分ついていきます!」
「俺はお前が出来るやつだって信じてたぜ」
数々の称賛の声に、気をよくした耕太は、鼻の下をかいて照れ隠しをした。
「へへっ。当然だぜ『ひよこ鑑定士』の能力を得た俺に不可能はない!」
「「「「…………」」」」
シーンと沈黙が教室を支配する。
生徒たちは、彼にかける言葉が見つからなかった。
だから――
「問題分担決めようぜー」
「オレ38問目やるわ」
「じゃぁ私ここやる」
――聞かなかったことにした。
「ちょちょっ!なんか反応してくれよ!」
心を一つに(耕太以外)まとめた1組は着々を問題を解決していった。
結局最後まで耕太の声に反応するものはいなかったが、全問書き写しの権利を得たのだった。
彼が将来国境なき『ひよこ鑑定士』として年収数千万を稼ぐのは、また別のはなし。
自習プリントを片付けた生徒たちは、三者三様の時間を過ごしていた。
麗奈を加えた夏海とひよりの3人も同様である。
「いやぁ、プリントは難敵だったな」
「まさか習っていない問題が紛れているとはね」
「性根の悪さがにじみ出ていたわ」
この場にいない数学教師へと呪詛を送っていた3人だが、夏海が「あっ!」と声を上げる。
「麗奈の能力はどうだったんだ?」
「わたしの能力は『快眠』でしたわ」
「オレは『消臭』だったぜ」
「ひよりはどうだったんですか?」
麗奈の言葉に、ひよりは封筒を机の上に出しながら、大山の言葉を聞き逃したことを説明した。
「流石に呆れたとしか言えませんね」
「無意識に能力使えてるのは凄いと思うぜ」
「3人で確認できるからいいんだもん」
ひよりは2人から視線を逸らし、封筒の中から能力を記載した用紙を取り出した。
「それじゃぁ、広げるよ!」
「おう、いつでもいいぜ」
「なんかドキドキしますわ」
「えい!」
勢いよく開かれた用紙には『仙人』の二文字がが記載されていた。
「『仙人』…?」
「あれだよな、後頭部の長い爺さんが宙に浮きながら雷降らすやつ」
「え!頭長くなっちゃうの?!」
「所説あるようですが、超自然的なエネルギーを自在に操る不老不死的な存在…らしいですね」
リストバンド型端末ブレホによって空中に投影された画面を片手に麗奈が述べた。
「能力者データベースによると国内で『仙人』が確認されたのは30年前みたいでね」
「おお、レア能力じゃん」
「ちなみに『ひよこ鑑定士』は47年前」
「ま、負けた…」
「発露数は『ひよこ鑑定士』の2倍だそうです」
「実は『ひよこ鑑定士』って凄いのか?」
「完全出来高制で年収数千万が狙えるとか」
「すっご」
調べるほどに株が上がり続ける『ひよこ鑑定士』ではあるが、外国語習得および仕事先の紹介が必須である、選ばれし職業であることをここに記しておこう。
「でもま、ひよりは『仙人』才能あるだろ!」
「そうですねぇ…風や地面の流れ?というのはおそらく自然エネルギーなんでしょう」
「えへへ、そうかな?」
「自然の多い山だったらもっと分かりやすいかもな!」
「『仙人』は人里離れた山奥で修行をするそうなので一理ありますわ」
(修行かぁ…土日に山登りしてやってみようかな?)
レア能力で舞い上がっていたひよりが2人に煽てられ、修行する気満々になったのである。
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