第11話 修学旅行

中学生ひしめく車内。外は高速で移り変わる風景。

ひより達は修学旅行先の京都へと移動していた。


「しっかし不思議だよな~」

「何がですか?」

「ワープ技術なんてもんがあんのに、何百年も前の乗り物使ってんだぜ」

「行先を決められないんですから仕方ありませんわ。それに、使われている技術自体、進歩して当時よりも高性能になってますよ」

「なんでダメなんだ?異界ゲートみたいに固定しときゃいいじゃん」


夏海が解決策を提示したかのように言う。

呆れた表情を隠すことない麗奈。


「あのねぇ一般常識として授業で習ったでしょ?宇宙は常に動いてるから、ワープなんてしたら補正出来ないレベルで大幅なズレが生じるの。最低限の出力で太陽系から脱出するのよ?」

「……あ~なんか習ったような気がしなくも……でもじゃぁ、なんで異界ゲートは大丈夫なんだ?」


余談だがワープ技術は大気圏をロケットエンジンで脱出するよりも低コストで果たせることから、天文学という分野では多大な貢献を与えてはいる。しかし消息不明になる探査機体も多く、基本的に有人ワープは行われていない。


夏海の軽口に頭を押さえながら「それも習ったでしょ」と麗奈は続ける。


「異界は全く別の次元に存在する重なり合った世界で、いわゆる平行世界のような場所だとされているわ。ちなみに、奇跡的に全てのゲートが生物生存可能な環境に繋がってるけど、もしもの事態を考えて国際条約で新規設置は禁止されているの……これでいい?」

「おう、サンキュー!いや~よく覚えてるな~」

「夏海……今年の高校受験大丈夫なの?希望校に行けないわよ……」

「そ、それは困る!一番近いとこにする予定なんだ!」

「うちの近場は、どこも偏差値大差ないから勉強するといいわ」


ひよりは二人のやり取りを内心「大変そうだなあ」と眺める。

仙界へと異界留学するのがホボ決まっているので、余裕そうにしているのだ。

そんな態度に気づいた夏海はひよりの両肩を掴む。


「うお~い!早々に合格貰って~余裕たっぷりだなんて、う~ら~や~ま~し~いぞぉおお!」

「ひゃっ!なっちゃん揺らさないで~っ」

「う・ら・ぎ・り・も・のはこうだ~!」

「ひよりも大変ですね…ボリボリ」

「麗奈ちゃん!お菓子食べてないで助けて~っ」

「ボリボリ……その願いは私の力を超えているわ」

「ざんね~んっ!」

「ぴぇぇえええん」


親しい友人とのじゃれ合いも、修学旅行の1ページに記録される。

何年経っても色褪せない思い出となるのだ。



修学旅行2日目、グループで計画したルートをタクシーで巡っていた。


「お昼のお好み焼き美味しかったね!」

「オレが焼いたんだから感謝するといいぜ!」

「夏海じゃなくて運転手さんに感謝ですわ」

「あっはは!お気に召したんなら紹介したかいありますわ。」


夏海の「オレは~?!」の声を背景に、高齢の運転手は上機嫌に答えた。

そこへ助手席から声がかかる。

人数の関係上、ひより達の班と一緒に行動している担任教師だ。


「こちらのリサーチ不足で申し訳ありません。貴方たちも、はしゃぎ過ぎて、ご迷惑おかけしないでね」

「いやぁ、気にせんといてください。予定してた店が臨時休業じゃ仕方ないかと。それに修学旅行なんか元気なくらいで丁度いいですわ!」

「運転手さんわかってる~!」

「お、お願います!」

「流石ですわ、運転手さん」

「あっはは!分からん事もあれば何でも聞いてくださいな!」


担任は、生徒側を擁護する運転手に苦笑しながら「お気遣いありがとうございます」と答える。

そのまま運転手の小粋なトークで和やかな時間が流れた。


次の目的地に近づくと運転手から「そうだ」とこぼれる。


「次の神社、この時間帯だと混むんですわ。すいませんが近場で降ろすんで、少し歩いて貰ってええですか?帰りまでには駐車場に辿り着いてると思いますんで」

「分かりました。貴方達それでいいわね?」

「「「は~い」」」


近場で降ろされた四人は、目的地である鳥居が沢山ある狐を祭る神社へと向かった。

運転手の言葉通り、人や車がごった返していた。

道が狭いので余計に混むのだろう。


しばらく歩いて神社前に到着する。


「私はここで運転手さんを待ってるわ。時間も余ってるし、貴方達はゆっくり見学してきなさい」

「駐車場いっぱいで、すごく渋滞してますよ?」

「時間かかって暇になりそうですけど?」

「どうせだから先生も一緒にいこうぜ!」


三人の言葉に担任は「あのね…」と呟く。

「この神社ね、高低差があってすごく疲れるの。昨日の夜も、暴れる男子の対応で疲れが溜まっててね……貴方達はまだ若くて気にならないかもしれないけど、30近くになると本当に辛いのよ?今は信じられないだろうけど、あの頃の私もそうだったわ。でもね、だんだんと思った通りに動かなくなって行くの辛いわよ…………ああ!それと私といるとどうしても気を使っちゃうでしょ?少しは貴方たちだけで楽しんできなさい。ほら行った行った」


慌てて取ってつけたような理由を最後に付け加えられ、三人は神社へと追いやられた。


「絶対最初のが本音だよな?」

「聞かなかったことにしてあげなさい」

「あはは……」


大人になるのは辛い事なのかもしれない。

そんな未来への不安を押し付けられたのであった。

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