第6話 大事になってました
保護されたひよりは、そのまま家族と対面……ということはなく、男性警察官に背負われて下山。
途中「おんぶなんて恥ずかしいな」と考えていると、どこからともなく現れる幾多もの警察官達による喜びの声と共に頭は冷えていく。
山の麓には何台ものパトカーと十数名の警察官が集まっていた為、とんでもない大事になっていると改めて実感する。
(ひいぃぃいい!なんかわかんないけど、ごめんなさい~!)
そのまま涙目になりながら、無線で呼び出されていた救急車両の担架に乗せられ、近場の総合病院へと搬送された。
道中、真っ青になった顔を心配されながらも周囲の言葉を拾って整理すると。
今日は土曜ではなく月曜であり、夜中になっても帰ってこず、電話も繋がらないひよりを心配して、両親が友人知人に手当たり次第に連絡するも、知らず存ぜぬで行方が分からなかった。
娘が事件に巻き込まれたのではないのかと警察へ通報し、聞き込みをしたところ、近場の登山道でそれらしき人影があったとの目撃情報の元、近辺を捜索。
本人の自転車を発見したものの、時刻は日曜の夜中になっており二次遭難の危険性もあり、登山道近くのみを確認。
また、ブレホを所持している可能性が高く、通信会社からの最終通信地点の経歴提出が月曜午前との見込みのため、その周辺を重点的に捜索することとした。
月曜朝一で届けられた地点付近へ、捜索チームを派遣、ホボ同位置にて発見に至るとのことだ。
総合病院に到着すると、女性警察官も付いて来てるのに気が付く。
なんでも彼女が両親の替わりに立会うようだ。
それから精密検査のためのカプセルに入れられたかと思えば、レントゲンの撮影に採血、点滴と次々こなしていき、最終的にベットで横になっていた。
この間ひよりは、担架で運ばれたり、車椅子に乗せ換えられたりして、「ドラマの登場人物になったみたい……」と現実逃避に走っていた。
◇
「いや~、大変だったね!親御さんには連絡してあるから、きっとすぐに来てくれるよ!」
「あ、はい…わざわざありがとうございます」
「仕事だから気にしないでいいよ!あ、そういえば自己紹介してなかったね!私は鈴木巡査、気軽にスズちゃんって呼んでね!」
「逆井ひよりです。スズちゃんさん、よろしくお願いします」
ベットに横になりながら頭を下げる。
「さんはいらないって~!スズちゃんでいいのよ!ほら、スズちゃん!」
「す、スズちゃん」
「いいねいいね~!あいたっ!」
コンッという軽い音が鈴木の頭から響く。
発生源は黒いノートで、その持ち主である年配の男性警察官が呆れ顔をしている。
「迷惑になるから、その辺でやめなさい」
「いやいや!普通に口頭で注意してくださいよ!パワハラですよパワハラ~!」
「はいはい、わかったわかった」
(なんか仲良さそうだな~)
叩かれたことを口では怒っているが、終始ニコニコと上機嫌な様子。
さらにコンコンコンッとノートで追撃を加えられても「あいた~!」と笑いながら頭を押さえる。
「こんな感じの奴だから、テキトーに聞き流しとけばいいからね」
「あ、あははは……」
「ロジハラですよ!ロジハラ~!」
「で、私がこいつの上司の菊池巡査部長だ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
横から文句を言われているが、無視をすることにしたらしい。
「で、今回の事なんだけど、体調に問題なければお話してもらっていいかな?年頃の女の子相手だし、本来ならコイツにやってもらうはずだったんだけど心配になってね……」
「えぇ?!全然大丈夫ですから!心配いりませんっ!仲良しですから!」
「……ね?」
「はは……」
この短い間の出来事で、今まさに胸を張っている彼女を「わたしできるもん!」と幼児が主張しているようにしか見えなくなっていた。
「とりあえず(不安だけど)スズちゃんにお願いします……」
「はい!よろこんで!」
「……大変なのに気を使わせてゴメンね」
不安だが、そういうことになった。
◇
「ひよりさんが今回、山中に踏み入ったのは、どういった理由があったのですか?」
「あーそのですね……(修行の為とか言いづらいな)」
「不安にならないでも大丈夫!この時期、貴方くらいの年頃なら修行の為に山川に踏み入って捜索対象になることは珍しくありません!どんな理由でも恥ずかしくないですよ!毎年の恒例行事なんで!」
(毎年の事なんだ……)
「あいたっ!」
「だからやめなさいと言うただろうが、真面目な口調が10秒しかもたなかったぞ……」
「そんな~!」
漫才をはじめた二人を横目に、ひよりは恥ずかしさの余りうつむいてしまった。
菊池が「ごめんね、気にしないでいいよ」と慰めてはくれるが、図星だったので心の傷は深い。
しかしながら鈴木の言葉通り、毎年恒例ならどうせばれるんだと、腹をくくり顔を真っ赤にしながらも薄情する。
「スズちゃんの言う通りなんです……」
「あ、嗚呼……ごめんね……」
「ほらもう!デリカシーがないですよ!私の勢いにあわせたほうが良かったんです!」
(そこまで考えてくれてたんだ……)
ひよりは鈴木に尊敬の眼差しを送る。
が、コンッとノートで叩く音が聞こえた。
(ん?)
「何も考えてない癖に偉ぶらない!あと他人を下げようとするな!次の査定に考慮しとくからな」
「ひい~!見栄張ってごめんなさい~!ご容赦を~!」
ひよりは鈴木に軽蔑の眼差しを向けた。
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