中等部二日目 ???????

第15話 自分への恨み

朝。目が覚める。

たくさんある寮の部屋、の中の一室。俺の部屋。

無地のレースカーテンが遮ることのできなかった朝の光が、俺に降り注ぐ。

春の鳥の鳴き声。やわらかい光。清潔な布団。

全て、地下にいては知らないままだったもの。

ゆっくりと、体を起こす。

額には、汗が浮かんでいる。

…何故だろう。

今日は普通に気持ちのいい、と言われる朝のはず。

だが俺は今、ありえないほど気持ち悪い。

何故だ。

暑すぎず、寒すぎず、ジメっとしているわけでもない。

なのに、なぜ。

鼻の奥から、腹の底から、全身から、

錆びた鉄のにおいがする?

地下にいたときの、牢獄にいたときの、あのにおいがする?

あのときの記憶が、頭から離れない。

なぜ俺は今更になって、あのときの悪夢ゆめを見る?

なぜ俺はこんなにも、弱くなってしまったのだろう。

あぁ、そうか。

昨日のあの夢はきっと、俺自身への戒めだったのだ。

この臭いはきっと、俺自身への警告だったのだ。

俺が今更になってあのころの夢を見たのはきっと、"新しい環境しあわせ"を求めてしまったことへの罰をくらったからだ。

俺は呪い子。忌み嫌われ、死にながら生きている。

何も、誰も、信用してはいけない。ほだされてはいけない。

俺は、"オーナーの忠犬"だから。

オーナーのために、死んで逝かなければならないのだから。

これは誰にも、知られてはいけない、俺の、極秘任務。

"____"

オーナーが、俺に、与えた、命令。

俺が死んでも、果たさなければいけないこと。

「まいっか。腹減った。朝飯…。」

考えても仕方がないことはわかっている。

ならまず、腹ごしらえだ。

腹が減っては戦もできぬ、ということわざもあるみたいだしな。

「アイツ起こして、さっさと食堂行こ。」

ベッドから立ち上がり、黒い扉を開き、自室を出て、すぐ隣の白い扉をコン、コン、コン、と、三回ノックする。

…返事はなかった。

「こんなとき、魔力があれば"テレパシー"が使えんだけどな…。」

"テレパシー"。

その名の通り、術者と複数人を繋げるための連絡手段で、魔力量がいちあるだけで使える、超々初級魔法。

原理は簡単。人間などの動物や空気、それらに含まれている魔力に魔力で働きかける、ただそれだけ。

しかし、テレパシーを極めたり、消費魔力量を多くしたりすると、物や生命などを転送する、"テレポート"が使えるようになることもあるらしい。

だが、残念ながら、俺には魔力が全くないので、テレポートはおろか、テレパシーも使えない。

俺から発信することもできないし、誰かが俺に発信することもできない。

働きかける魔力も、働きかけられる魔力もないから。

魔力のない自分を恨んでいると、ふとダイニングのテーブルにある、小さなナニカと、一つのメモが目に入った。

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