第13話 年頃の男子に夕飯抜きなど、残酷すぎないか?
「ねぇ、またぼーっとしてる。」
よくわからない暗闇に沈みそうだった俺を引き上げたのは、
…ビャクヤの声だった。
「...は?」
それでも、ビャクヤの言っている意味を理解することができず、聞き返す。
「…いや、"は?"って言われても。そのまんまの意味なんだけど。
今日出会ったばっかで言うのもなんだけどさ、一日で何回ぼーっとしてるの。
朝もぼーっとしてたし、今もぼーっとしてた。
言ったよね?体調悪くなったら言えって。」
ビャクヤが早口で俺に説教みたいなことをする。
…でも、父親に説教されたときより、優しくて、あたたかくて、心に、響いてきて。
確実に、"あの頃"とは違うんだって、思った。
もう、カビのような臭いはしなくて、かわりに、ビャクヤとか、カイトとか、ジンとかから、太陽のような、ぽかぽかした匂いがして。
「キミが何を思ってるのかはわかんないけど、」
「は~い。スト~~~~~ップ。」
なおも説教を続けようとしたビャクヤを、カイトが止める。
「…なに。」
それにむっとした表情で返すビャクヤ。
「ビャク、言い過ぎだぞ~。
レイくんにだって、事情がある。それに、オレたちは今日、初めましてだったんだ。言えないのも、当たり前なんじゃないか?」
小さい子供をあやすように、優しくビャクヤを諭すカイト。
…まるで親バカな父親か、ビャクヤより一回りデカいブラコンな兄か。そんな感じだな。
「ケンカやめてさぁ、はよ部屋番号確認せぇへん?すぐそこに自分らの名前あんでぇ?」
「…あ。」
あんなに混みあっていたロビーは、いつの間にか俺たちだけしか居なかった。
「まさか、カイトとジンが同じ部屋だとはな。」
「よかったじゃん。キミは部屋の移動なかったし。」
「レイくんとビャク、ちゃんと"三〇〇一"だったな~。オレたちも"三〇〇二"でしっかり真隣だったし。」
「しっかし、オレっちとカイトさんの隣の部屋ぁ、誰がおるんやろなぁ。」
俺たちの部屋がある三十階まで、階段をのぼりながら会話をする。
本当は部屋まで直接行ける転送装置があり、魔力がなくても使えるのだが、一度部屋に足を踏み入れていないと使えない仕様になっているので、全員で三十階まで登らなければいけなくなってしまった。
いや、俺は転送装置使えるんだが。
本当は転送装置でパパっと部屋に行きたかったのだが。
「キミだけ転送装置で先に部屋に行くとかないよね?ね?」
「お、おう。」
ビャクヤにとてつもない圧をかけられ、仕方なく一緒に行くことになった。
「つ、疲れた。」
ビャクヤが十三階の踊り場で立ち止まる。
息も荒い。相当疲れてんな。
…床に座り始めたし。
まぁ、ビャクヤが案外正常なのかもしれない。
ただでさえ三十階という果てしないほどの階数なのに、一階と一階の間の段数がありえないほど多い。
俺だって、初等部でここの寮に入って、今の部屋になったとき、何回立ち止まって、何十分かかったことか。
それなのに、コイツらは…
「ビャク?大丈夫か~?一旦休憩にするか~。」
「いやぁ、でもよぉ、もうだいぶ
なんでこんなピンピンしてんだよ!!!!
「レイくんはどうしたらいいと思う~?」
「え。」
いや、急に話振ってくんなよ!!
普通にびっくりしたわ。
「あー。まぁ、あと十分くらいはかかるだろうから…今何時?」
俺の問いにカイトがアンティークな懐中時計と外の様子を見比べながら答える。
「えっと~…七時くらいか?」
陽は完全に落ちきっているし、やはりそのくらいか。
「夕飯は七時十五分から。集合は五分前。」
計算をしながら答えを出す。
「つ、つまり?」
ビャクヤが床に座ったままで聞く。
「あと十分で食堂まで行かなければならない。しかし、階段を登りきるまでにかかる時間、およそ十分。このままでは確実に間に合わない。」
「お、遅れたらどうなんだよぉ?」
俺の説明を黙って聞いていたジンが、おびえたように口を開く。
そんなジンに俺は、
「メシ抜き。」
突き放すように、真顔で残酷なことを言ってやった。
「い、急がねぇとじゃねぇかぁ!!!」
「ビャク、走れるか!?」
「む、むりむり。立てない。」
すると、顔を真っ青にして、見事に焦りだす三人。
おもしれぇ。
「ビャク、おんぶするから!立って!!」
「え!?いやいや重いから!!」
「いいから!!早くしないと本当に夕ご飯抜きになってしまう!」
焦ったカイトが、ビャクヤを背負おうとかがむ。
それをビャクヤが拒否する。
「メシ抜きでいいなら、のんびり行くか?」
「やだやだやだやだ!!!腹減ったぁ!!!はよ行こぉぜぇ!!」
「なんでお前が騒ぐんだよ。」
俺の発言に駄々をこねて騒ぎ始めたジンに、ツッコミをいれる。
気付かぬ間に、結局カイトがビャクヤをおぶることになったらしい。
カイトに背負われたビャクヤは、少し不貞腐れている。
「っしゃ。行くぞ。」
「メシ!!オレっちのメシぃ!!」
「ビャク?しっかり掴まっておくんだぞ~。」
「…ちょっと怖いんだけど。」
階段を全力で駆け上がった結果、ギリギリで夕飯には間に合った。
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