第8話 たぶんありがたかった新たな出会い
「新入生、入場。」
司会役らしき人物の声とともに、華やかな音楽が流れ始める。
花道を歩きながら、いくつもの視線を感じる。
案の定というべきか降り注ぐ冷ややかな視線に、全身が刺されているような感覚を覚える。
全てが俺に向けられているわけではないのだろうが、少し緊張というか、不快な気持ちが押し寄せてくる。
喉のあたりまで遡ってきた朝飯を必死に飲み込みながら歩く。
冷や汗が止まらない。
大丈夫。ここはあの
大丈夫。大丈夫だ。
なんとか自分の席のある位置まで行き、座る。
「ねぇ、どうしたの?」
隣に座っているビャクヤの声がした。
「あ、あぁ、なんでもねぇよ。気にすんな。」
必死に取り繕う。
「しっかし、やっぱ多いな。何クラスあんだよ、コレ。」
そんな俺に、
「…三十四クラス。さっきも言った気がするけど?」
ビャクヤは少し顔をしかめて答える。
「あぁ、すまんすまん。そうだったな!」
…俺は今、上手く、笑えているだろうか。
「...もうすぐ三十四クラス目、入場し終わるみたい。」
「そうか。ありがとな!」
上手く、笑えているだろうか。
「これから、第――回、聖魔メルトリータ帝国立聖メルトリータ学園中等部、入学式を開式致します。」
さまざまな感情と視線が渦巻く中、ついに、
ぼーっとしていると、
「新入生代表挨拶。新入生代表、"白髪の祝い子"ビャクヤ。」
「…はい。」
司会役が役職名と共にビャクヤの名を読む。それに続き、隣からビャクヤの声が聞こえた。
コイツ、新入生代表だったのか…。
ステージの階段を上り演台へ向かう姿は、いつになく真剣で、
(コイツ、俺より身長低いくせに、強気なんだよなぁ、小型犬みたいw)
なんて思いながら見たビャクヤは、
そして、演台に立ったビャクヤは一礼して、話を始めた。
「桜が舞い、よく晴れた今日、私たちは、――――。」
代表挨拶をするビャクヤを、ぼーっと見つめる。
「伝統ある、由緒正しきこの学校の一員として責任ある行動を心がけていきます。校長先生をはじめ、先生方、先輩方、どうか暖かいご指導をよろしくお願いします。
以上をもちまして、新入生代表挨拶とさせていただきます。」
また一礼をして、ビャクヤが戻ってくる。
「おう。お疲れ。」
「お疲れ様。」
「お疲れさんやでぇ!!」
俺、カイト、ジンの順にビャクヤに声をかける。
と、ビャクヤはあからさまに顔をしかめる。
「ど、どした?」
「あのさ、キミたちね、」
なに、どした。めっちゃ震えながら言葉を発するビャクヤ。
演台に立ち、堂々と演説していたと思えないほど弱々しい声で、
「
顔を真っ赤にしながら、俺たちにそう訴える。
「なんだよビャク、そんなことかよ~!」
「ほんとに恥ずかしかったんだからね!?」
「レイだけやなくて、ビャクヤさんも照れ屋なんやなぁ!!」
「あ‟?誰が照れ屋だって?」
「キ、キミたち、僕のスピーチ終わってホッとしてるのかもしれないけど、まだ式続いてるから!!静かにして!!」
「へいへーい、静かにしますよ~。」
まだ顔が真っ赤なビャクヤに、散々いじった仕返しに、少し嘲笑う感じで返してやる。
「ははっ、ビャク、レイくんをからかったからだな~!」
「ビャクヤさん、どんまぁい!」
式の途中だったが、4人でバカな話をして盛り上がる。
もちろん式の妨げにならないように、小声で。
入学初日なのに、出会ってまだ数時間なのに、今までかかわってきた人間の中で、珍しく居心地がよかった。
なぜだろう。
きっと、彼らが俺のことを名前で呼んでくれるから。
きっと、彼らが俺自身と会話をしてくれているから。
きっと、彼らが俺に笑いかけてくれるから。
きっと、――――。
俺は、コイツらと一緒に、これからを過ごしていきたいって、思った。
…のかもしれない。
俺は、油断していた。
あの視線に、気がつかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます