第3話 教育と洗脳は紙一重

「ビャクヤです…さっきは意地悪してごめんなさい…。」

まるで飼い主に怒られた子犬みたいな感じでしゅん、とうなだれる白髪。(名前教えてあげたんだから名前を呼べ byビャクヤ)

いくら生意気なコイツでも、カイトには逆らえないみたいだ。カイト怖…。

当のカイトはというと、「よく頑張りました」とはくh…ビャクヤの頭をなでている。

なんかまわりが騒がしいなぁ…。

なんてのんきに思っていたら、

「あの黒髪、呪い子ではありませんの…。なんでビャクヤ様とカイト様のお隣にいるのかしら…。」

「しかも、ビャクヤ様とカイト様に謝罪させていましたわ。」

「まぁ!ありえない…!やはり、呪い子は不幸を呼ぶのね…。」

「ビャクヤ様とカイト様…お可哀そうに…。」

俺に怒り、ビャクヤとカイトに同情する金髪など、色鮮やかな髪をした女子たちの声が聞こえてきた。

呪い子…。

俺はこの言葉を、何度耳にしたらいいのだろうか。

いつもいつも。この黒い髪のせいで。この黒い目のせいで。呪い子だと、近づくなと、気持ち悪いと、言われ続けてきた。

ずいぶん前に閉じ込められていた、地下の薄暗い、カビと鉄のにおいがする、あの牢屋を思い出す。

「いいか。お前は最期まで忌み嫌われて死んでいくんだ。お前はそれを疑問に思ってはいけない。お前は俺に逆らってはいけない。全て俺が正しい。お前は呪い子だ。お前の全てが俺に迷惑をかけているんだ。わかったなら反抗するな。俺に忠実な猛犬。それがお前のあるべき姿だ。」

思い出したくもない、あの日の記憶。

父親に徹底的に教育せんのうされた、あの日の記憶。

思い出したくない。そんな思いに反して、今までの思い出したくない記憶が、頭の中で再生される。

「呪い子が」「近づかないで」「ねぇ、あの黒髪の子に子どもを近づけないほうがいいわ」「無属性魔力なしがうつる」

…うるさい。


うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

うるさい!

頭が痛い。俺への罵詈雑言が、聞きたくもない声が、頭の中で響く。

「…レイくん?」

カイトの声。

「え、どっ、どうしたの?」

ビャクヤの声。

今まで、名前を呼ばれることなんて、ほとんどなかった。

俺は呪い子だから。呪い子って、言われて当然だから。

こんなあたたかい声、知らない。こんなあたたかい眼差し、知らない。

知らない。

「…?…イ…レ…?…レイ?」

知らない。知らない。やだ。おかしい。やだ。

「…レイ!」

「…!」

ビャクヤの声で現実に引き戻される。

「…なんで、名前…」

カイトはともかく、コイツに名前を呼ばれるとは思ってなかったので、びっくりして、思わず顔を上げて聞き返す。

「何言ってんの。キミが名乗ったんでしょ?」

少し呆れ気味で、不思議そうに問うビャクヤ。

「いや…でも、」

「レイくん?大丈夫?具合わるい?」

下を向いている俺を覗きこんで、心配そうに問いかけるカイト。

「…や、だいじょ…ぶ」

こんな風に心配されるのは初めてで、少し変な感じがする。

「そう…?」

不安そうに聞くカイトをよそに、リンゴ―ン、と冷たいチャイムの音が鳴り響く。

「あ…座らないと。」

カイトがそうつぶやく。

「なんかあったら絶対言いなよ。」

ビャクヤが怒り気味に言う。

ビャクヤ、カイトと共に、未知の教室へと足を踏み入れた。

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