第20話

 千晶さんの旦那さんの浮気現場に遭遇してから、早いもので1ヶ月が経とうとしていた。

 同窓会の後、いつの間にかスマホに連絡先が追加されていた鳴翔から何度かメッセージが届いていたが、1つも確認せず無視を続けている。はずだった。

 今日は溜まっていた有給を使って家でのんびりする予定で、録画してあったドラマをつける。それとほぼ同時にインターホンが鳴り、宅配か何かかと思い外に出てみると、そこにいたのはわたしの家の場所を知るはずもない鳴翔だった。わたしはほとんど条件反射でドアを閉める。

「え、なんで閉めるんだよ」

 ドアの向こうから鳴翔の声が聞こえてくる。

「話があってきたんだって。…あ、俺はこの状況を見られて困りはしないけど、お前は困るんじゃないのか?」

 ドアに背中を合わせるようにして立ち、一旦深呼吸をして自分を落ち着かせる。今度こそは流されたりしない。そう意を決してドアを開けた。

「入るんなら早く入って」

「俺超警戒されてるんですけど」

 可笑しそうに笑ってどこか嬉しそうな顔をしながら靴を脱ぐ。意外にも靴を丁寧に揃えるところは、何度見ても慣れない。

「鳴翔はなんでここ知ってたの」

リビングに通して、一時停止中のドラマを消す。鳴翔は興味深そうに家の中をキョロキョロと見回している。

「清水に教えてもらった。あ、今は宮添か」

なんとなくそんな気はしていたが、やっぱり奈々だった。

「てか、良いとこ住んでんだな。俺の家とは大違いじゃん。まあ…お前も大手の会社に就職したらしいしそりゃそうか」

1人で勝手に納得したくせに「普通あんなでかい絵とか花飾ってないだろ」とまだぶつぶつ何かを言っている。

わたしは呆れてため息を付いた。

「そんなのどうでもいいでしょ…。で、さっき言ってた話って何?」

正直、同窓会が終わったらもう鳴翔と会う気はなかった。

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