第12話
まだ寝ている鳴翔を起こさないように静かに布団から出て、床に脱ぎっぱなしになっている2人分の服の中からワンピースを見つけ出す。家を出る前に着けた香水の甘い匂いが、まだ少しだけ残っていた。
昨日の夜、電車を降りてからの記憶があまりない。ただ…久しぶりに満たされたことだけは覚えている。
これでわたしも輪君と同罪。
そう自覚した途端、自分がとても気持ち悪く感じた。
「―あれ…。なに、もう帰る感じ?」
寝起きでまだ掠れている声に振り返ると、ボクサーパンツ1枚の鳴翔が布団から出てきたところだった。
昨夜わたしの身体を宝物のように大切に優しく抱いた鳴翔。不思議と嫌な気持ちはしなかった。その代わり、何かがすごく満たされて泣きそうになった。
「うん、帰るよ」
「ふーん。俺とはワンナイトで終わり?」
咄嗟にベルトを締める手を止める。
「…さあ?なんのことだか」
なるべく平静を装いながらベルトの金具を止めてバッグを手に取る。壁に掛かっている時計は丁度7時を指していた。
「まだ帰らないでって言ったら…どうする?」
聞こえなかった振りをしてドアノブに手をかける。振り返ったら、また昨夜のように流されてしまいそうだから。聞こえなかった振りをしていないと、また恋しくなってしまいそうだから。
「じゃあね、昨日はいろいろありがと」
ドアを開けて廊下に出ようとした時、後ろから強く抱きしめられた。
「…まだ帰らないで」
首筋に鳴翔の吐息がかかってくすぐったい。
「ねえ、やめて。離して」
「やだ」
さらに強く抱き締められる。肩からバッグが落ちた。
「朝帰りする悪い子には、お仕置しなきゃでしょ」
「誰のせいだと思ってんの…」
「でも抵抗しなかったのは麗名じゃん」
普段とは雰囲気の違う甘々な彼を、わたしはまた拒否することができなかった。
最低だとわかっている。そんな自分が気持ち悪くてしょうがない。なのに、なぜこんなにも彼に溺れて彼を求めてしまうんだろう。
「俺が愛してあげるよ」
それはきっと、わたしが愛に飢えているからだ。
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