第3話

 ランチを食べ終わり、少し話してからお店を出た。既に14時をまわっていることもあり、外はとても暑かった。

「―ねえ、麗名ちゃんの旦那さん今日は休日出勤って言ってたんだよね?」

「うん、なんか急ぎのプロジェクトがあるらしくて。朝早くに出てったよ」

「じゃあ…あれは誰?」

夜宵さんが指差す方を見ると、旦那であるりん君が女の人と腕を組み仲よさげにホテルに入っていった。

「え――…」

一瞬だけ見えた隣の女性の顔。あれは、沙保ちゃんだ。それに、こだわりだという明るい茶髪の内巻きボブ。ここ数年毎日見てきた後輩の姿を、見間違えるはずはない。

でも、じゃあ昨日ショッピングに誘ったのはなんで!?

状況を理解するのに、数秒の時間がかかった。

あれは、わたしが予定があって断るのをわかった上で聞いていた、カモフラージュみたいな物だったってこと…?

「麗名ちゃん、麗名ちゃん!」

千晶さんに肩を強く揺すられ、我に返る。

「一旦落ち着こうか。うちなら今誰もいないから」

夜宵さんに促され、ほぼ無意識のまま歩き出す。

 さっき食べたランチの味はもう忘れていた。


「はい、ダージリンティー。リラックス効果があるから」

夜宵さんがティーカップを順番にわたし達の前に置いていく。わたしはそのティーカップを口まで持っていき、一口だけ飲む。

「麗名ちゃん、ちょっと落ち着いた…?」

心配そうに千晶さんが顔を覗き込んだ。

「まあ…まだ信じられないけど」

わたしは「あはは…」と苦笑いをし、手元のティーカップに視線を落とした。

何かがここから変わり始めていた。

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