第9話

 強く肩を揺すられた気がして、ハッと我に返る。

「麗名おはよー」

奈々の声だった。一旦周りを見て状況を把握しようと試みる。既にテーブルの上はある程度片付けられていて、各々帰り支度をしているところだった。

「ごめん、完全に寝てた」

バッグを肩に掛けながら立ち上がろうとしたその瞬間、視界が傾いて軽くよろけた。

「うわっ!大丈夫!?」

「大丈夫…、ありがと」

いや、正直言うと大丈夫じゃない。気持ち悪いし、なんかずっと視界がグルグルしているみたい。ヤケになって飲みすぎた…。いつもなら途中からはウーロン茶にするのに、今日は普通にお酒飲み続けたからなぁ。元々お酒は強い方だけど、限界を迎えると一気に酔う。

「そんなよろけてて絶対大丈夫じゃないじゃん。輪君に迎えに―あっ…」

途中まで言いかけて、まずい、というように奈々が口をつぐむ。

2次会の会場に移動している間、奈々にだけは軽くだけど、輪君とのことを話した。というよりは、相談したと言う方が近いのかもしれない。

「今日、うちの旦那仕事終わるのが遅くなる日だから、迎えにきてもらえないし。乗る電車も違うから駅までしか一緒に行けないんだよね。…どうしよう」

久しぶりに会ってあんな話を聞いてもらったのに、さらに介抱までさせるわけにはいかない。

「本当に大丈夫。さっきよりもちょっとスッキリしてる感じするし」

奈々からはそうは見えないのか、思いっきり疑いの目を向けられる。

元々わたしが飲みすぎたのが悪いんだし。少しくらい無理してでも平気なふりをしなくちゃ。これ以上心配はかけられない。

今にも吐きそうなのを堪えて歩き出そうとすると、右手首を急に掴まれて止められる。

「お前無理しすぎるの昔から変わってなさすぎ」

高校時代いつも一緒にいたグループの中の1人。尾崎鳴翔おざきめいとだ。

「確かお前が乗る電車と俺が乗る電車同じだし、ついでに送ってくわ。てかあっち方面俺達2人しかいないしな」

少し無愛想で強引なところは一切変わっていない。わたしのことを、よく知ったように言うところも。

彼はわたしの高校の頃の彼氏だ。

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