第16話

 千晶さんが机に頬杖をついて「リフレッシュはできたかなって」と言う。

「リフレッシュというより仕返しみたいなものじゃない?」

口に手を当てて、おかしそうに笑いながら夜宵さんがカップを傾ける。

「これからも関係は持つの?」

「どうだろう。なんか、気持ち悪いんだよね。あれだけ輪君の不倫でショック受けてたくせに、今自分も同じことをしてるって思うと」

あれだけ最低だ、裏切られた、と思っていたくせに、結局やっていることは一緒。所詮はわたしも不倫野郎だということ。

「何年かその状態でいるとね、気持ち悪いなんて思わなくなるよ。あ、これ経験談ね」

他にお客さんはいなくてシンとしている店内では、古いレコードから流れるワルツ調の曲しか聞こえない。

「私も不倫してるの。私の秘密はこれかなー」

「あたしは知ってたけど」

「千晶ちゃんはこの中で1番付き合い長いし。麗名ちゃんと由佳ちゃんが引っ越してくる前に話したからね」

千晶さんと夜宵さんはマンションが建てられてすぐから住んでいたらしく、その後に由佳ちゃん、わたしの順に越してきた。

「でも、夜宵さんのとこって、お子さん2人いましたよね」

確か女の子2人で、下の子が千晶さんのところの下の子と付き合っていた気がする。初めて聞いた時、いろいろ関係が入り組んでいてややこしいなと思ったのを思い出した。

「もう旦那にも子供達にも話してあるの。それで、認めてもらってる。旦那は家のことに全く興味無いみたいだし、なんなら子供達には不倫相手との仲を応援されちゃってるの」

わたしは夜宵さんの意外な家庭事情が、今まで抱いていたイメージと違いすぎて驚きを隠せないでいた。

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