厄介事と恋する美少女(たち)
妄想 殿下
第1話 学年イチの美少女は恋の夢を見るか
薫風吹き抜けるというには少し早い5月の下旬、グラウンド片隅の並木の葉はすっかり緑に色付いていた。
そんな桜並木の下では、女子生徒と男子生徒が立っている。
いや、男子生徒が少し頭を下げている。
「
「あー、ゴメンね。私、キミのことよく知らないし、それに今は誰かと付き合うとか考えてないの。じゃあね。」
石動さんと呼ばれた女子生徒は足早に並木道を校舎へ向かって去っていく。
グラウンドの土を少し巻き上げた風が、並木を揺らした。
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「
教室の扉を開け、
「え、ああ。火織か、これから部活に行くところ。」
火織は照れくさそうに視線をさまよわせる。少しウェーブのかかった髪先を触りながら、口を開く。
「終わったら、一緒に帰らない?私、待ってるから。」
「あ…、悪い。今日は部活のあと、ナイター練習の予定なんだ。遅くなるから。」
「そう、じゃあ、また今度ね。」
光一路は「じゃあ」と言うと手を軽くあげて教室を出ていく。火織は、「うん」というと出ていく彼を視線で追った。
火織だけが残された教室。ゆっくりと伸びていく影が火織の足元を隠した。
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駅からまっすぐに伸びる道の傍ら、そこに這いつくばっているのは、虫にしては随分と大きい。
周辺には、破れたビニール袋とそこから溢れ出した買い物が道に広がっている。それらを涙目で集めているのはとびきりの美人、火織である。
「なんでこんな……。」
誰にも聞こえないような小声でつぶやく。玉ねぎを拾おうと手を伸ばしたところへ、先に出された手が見えた。
「大丈夫か。はい。石動さん。」
「あ、どうもありがとう……。え、えと……。」
「……
涙目で下がり切った眉のまま、火織は玉ねぎを受け取る。そして、固まってしまった。
拾った男性は同じクラスの鍛冶家だ。
火織は同じクラスであることは思い出せた。そこから先は靄がかかったように思い出せない。正しくは、覚えてすらいない。
「どうした?……あぁ、入れるもんか。」
義水は固まっている火織の様子を見て、自分のリュックサックをあさり始めた。
そうじゃない、とは言い切れなかったが、まさかクラスメイトのことを知らないので固まっていたとも言いにくい。
「ほら」と義水は茶色いエコバッグを差し出してきた。
エコバッグ?
男子高校生がリュックサックに常備しておくものか?
「あ、え、ありがとう……。」
立て続けにおきる色々なことにどぎまぎしながらエコバッグを受け取り、玉ねぎを収める。
顔をあげると義水がてきぱきと落ちている買い物たちを集めている。火織もあわてて拾い始めた。星と街灯だけがほっそりとした火織の手元を見ている。冷たい光が、指先を見ているようだ。
すべてをひろい終えて、火織は改めて義水に礼を言う。
「ありがとう、鍛冶家くん。ごめんね、手伝ってもらって。」
「いや、別にいい、大変だっただろ。あそこのスーパー、有料になってから袋が薄いんだ。エコバッグを使った方がいいぞ。じゃあな。」
「あ、ありが……うぅっ……!」
義水が立ち去ろうとしたとき、火織は涙を止められなくなった。
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