第2話 流れよ涙、と学校イチの美少女は言った
ぎょっとした義水が火織にゆっくり近づいた。
「ど、どうした。どこか怪我でもしたのか?」
さっきまで火織のことなんか気にもせず、ただ落ちたものを拾っていた義水の様子が変わっていくのを感じたのか、火織はほんの少しだけ落ち着いていく。
「ご、ごめん……。」
「怪我じゃないのか?……あー、暖かいものでも飲むか?」
こくりと頷いて、火織は義水に促されるまま、チェーン店の喫茶店へ入る。
時間は夕食前で、店内の人影はまばら。少し淋しささえ感じる。
義水はリュックサックを椅子に置くと、さりげなく火織の手からエコバッグをはなさせ、席に置く。
「そこ、座っててくれ、コーヒーでいいか?」
「こ、紅茶。」
「分かった。」
義水はカウンターへ歩いていった。
火織は小さい席に座り、ちぢこまる。誰に何かを言われた訳でもない。しかし身の置き場がないように、椅子の上で身じろぎした。
「ほら、ミルクと砂糖は自分で入れてくれ。」
コーヒーマグとティーカップをテーブルに置く義水が置く。カタン、と小さな音が聞こえる。ありがとう、と言おうとしたが、こくりと首が動いただけで終わってしまった。
義水はコーヒーマグをゆっくりと傾け、少しコーヒーを口に含んだ。そして、ゆっくりと顔をあげ、火織の目を見ながら口を開いた。
「言いにくいならいいけど、なにかあったのか?」
つとめて優しい声で義水が火織に訊ねる。
火織は視線を彷徨わせる。指はいつのまにか髪の先を触っている。中空に放り出された言葉を探して、火織の視線は定まらない。
「え、えと、色々なことがいっぺんに起きて、それでなんか色々うまくいかなくて……。」
「そうか……そういうときもあるよな。」
それで静かになってしまった。しまった……。
義水は何かを話そうとして、手元に視線を落とす。
何かを思いついたのか、ぱっと顔をあげ、火織を見る。
「そういや、随分買い込んでたけど、何か作るのか?夕食か?」
すると火織ははじかれた様に目を見開き、義水を見た。
そして、またはらはらと涙を落とした。
「あのね……私、光一路くんが好きなの。」
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