第3話 崖の上の鍛冶家義水

「あのね……私、光一路くんが好きなの。」


義水に戸惑いが見える。突然の告白、しかも義水とは接点がない。

しかし、聞かない訳にも行かなさそう、と思ったかどうかまでは分からないが、義水は居住まいを正す。


「でも私が告白されるのはよく知らない人。私は私で一緒に帰ろうとか、色々と距離を縮めようと思うんだけど、光一路くんは部活で忙しかったり、あとは他の子とか。」


ああ、アイツ、モテるようだもんなと義水は思い出す。伏見光一路ふしみこういちろう。サッカー部でスタメン目指して練習中、でももうスタメン入りは確実とかなんとか。入部したての一年生でありながらだ。自分とは天と地の差だなと自虐的な笑みも出てくる。ああ、いけない、今は火織の話だった。


「だから、お弁当をね、お弁当を作ろうと思ったの。」


二人はエコバッグに入っている未調理の食材たちに視線を向ける。

これらは明日のために買われたものたちだったのか。

手作り弁当でアピール。

そうか、家庭的な面を見せることで自分の方に振り向いてくれることを期待するわけだな、わかるわかる。


「そうか、じゃあ、すぐ帰らないとな!がんばれよ!」


「私!……私、料理できないの!」


これで解散だなと腰を浮かせたところへの衝撃的な一言。

お前、じゃあ、何もできないじゃん。

アイデアだけじゃん、と言いそうになったところをぐっと飲み込む。


「何もできないじゃんって思ったでしょ。」


「……思ってない。」


思ってました。


「私、こう見えて、お嬢様なんだ。」


「こう見えても何も、めちゃくちゃお嬢様だろ。マナーとか……。」


実は義水には覚えがあった。

学食で見かけた火織の完璧な所作、あれはしっかりと学ばなければ身につかない。

テーブルマナーは、一見なんでもないものだが、正しい所作は知らないとできないものだ。

それを考えると今はどうであれ、教育がしっかりしていたことが透けて見えていた。


「だから、その、作るのはさっぱりで……。」


「はあ、でも調理実習とか。」


「あの、なんかみんながやってくれて……。」


義水は思う。

昔から周りがワッショイワッショイとやっちゃったのかな?

親切なようでその甘やかしはダメだぞと思ったところで火織がぐっと身を乗り出し近づいてくる。


「ねえ、手伝って、料理するの。」


「は?」


「料理、できるんでしょ?鍛冶家くん。」


「な、なんで。」


「エコバッグ。」


「単語で話さないでくれない……?」


火織は思い詰めた表情をしている。

義水は、なぜか焦りが伝播したのか追い詰められた気持ちになっていた。

何に追い詰められたのか、それは少女の恋心か。

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