第17話 セカンド・チャンス

ダイニングテーブルに綺麗に並べられた夕食たちをいただきながら、他愛もない話をしている。

学校の勉強の話、教師のしていたくだらない雑談。

美味しい夕食。

でも、そんな中で火織は昨日のことを思い出していた。


「昨日ね、光一路くんたちとカラオケに行ったの。」

「へえ、伏見は忙しそうにしてるから珍しいな。」

「うん、なんか部活が休みだったみたい。私と光一路くんと、野田さんと……何人かで行ったんだ。」

「そうなんだ。楽しそうなメンツだな。あんま知らないけど。」


義水は手を止め、食事してる風を装いながら火織の様子を伺っている。

火織の視線は茶碗の中の炊き込みご飯を見つめている。


「それで、なんかチャンスだって思って。あんまり光一路くんと接点がないから。それで行ったんだけど。みんな、同じなんだね。光一路くんと他の子が話したりしてて、全然ダメだった。」

「そ、そうか。」


義水は恋愛関係はさっぱりだめだった。急に現れた恋愛相談みたいな内容に戸惑う。

でも、乗りかかった船だ。

精一杯のフォローをしなくては、と考える。


「その、いきなり色々やろうとするからうまくいかないと思うんじゃないか。」

「色々?」

「そう。伏見と話したい、あれを話して、これを話して、色々といっぺんに上手にやろうと思うからうまくいかない。」

「そうかな。」


気負う気持ちはあったかもしれない。チャンスのことばかり考えすぎて。


「料理も一緒でさ。最初からうまくやろうとすると、やっぱり失敗しちゃうもんなんだよ。大切なのは、練習すること、あとは何をするのか目標を持つこと。」

「目標……。」

「玉子焼きなら、とりあえず形になること、からスタートしていい。綺麗に巻き上がった玉子焼きはいきなり作れない。」

「そうかな。」

「そんなもんだよ。だから、最初は『最近何か面白いことあった?』が言えればいい。そこから始めてみる。うまく行ったら二つ目、三つ目と増やしてみる。」


そんなもんだろうか。

急いで行かないと、私だけ取り残されて、このレースから脱落させられたりしないかな。


「美味しいじゃん。」


そう言って食べた私の玉子焼き。

ぐるぐるの迷いの中でも、優しい味を感じられた。

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