第10話 はい、焼きそば
「よくできたじゃないか。じゃあ、せっかくだから夕食を作ってやるよ。」
喜びを感じたのもつかの間、義水がそういうと、あれこれと冷蔵庫の食材を出し始めた。
「え、え、え?何で?悪いよ。」
「時間見てみろ、もうすぐ夕食どきだ。目玉焼きがあるから、それに合わせるよ。向こう行ってな。」
義水に押されてリビングに追いやられてしまった。キッチンでは義水が何やら切ったり焼いたりし始めた。
混乱と混沌だ。感動の暇もゆっくり貰えなかった。
いや、感動はしたが、でも展開が早すぎる。
キッチンに立っている義水が少し大きな声でこちらに話しかけてくる。でも、視線は常に自分の手元にあった。火織はその様子をチラチラと見ている。
「どうせ、夕食は外食なんだろ?昨日の食材もあったし、使わないでいると食べられなくなるから。」
「そ、そうなんだけど。」
二の句が継げない。買い込んだ食材たちは、使われずに朽ちていく運命だと少し思っていた。
そんな事を言う間も、義水の手は止まっていなかった。規則正しい音が聞こえて、落ち着く。
考えてみると火織は誰かが料理をしているところをじっくり見た記憶がなかった。
そんなことを感じていると、30分もかからなかっただろうか。
「ほら、出来上がり。横手焼きそばだ。」
茶色いソース焼きそば。炒めた野菜と麺の上には火織が作った目玉焼きと涙目焼きが載せられている。
「これにはちゃんと石動が作った目玉焼きが載ってる。お前の料理だ。」
ほとんどが義水の料理じゃないか、でも火織の成果がそこにある。間違いなく、火織の料理でもあった。それがどうしようもなく嬉しい。
「うん……。」
「ほら、冷めないうちに食べな。」
エプロンをつけたままダイニングテーブルに座らせられる。箸を持たせられ、焼きそばを食べた。
「おいしい……。」
「そうか、良かったな!」
いつの間にかキッチンに戻っていた義水は、手早く片付けをしていた。フライパンも包丁も、あっという間に洗われて、瞬く間に磨き上げられていく。
「よし!じゃあ、帰るわ。皿は食器洗い機に入れてスイッチすればいいから。」
「え、え?鍛冶家くんの夕食は?なんで私だけ食べてるの?」
「え、えーと、まぁいいじゃないか。じゃあ、またな。」
「ちょっと待って、え、あ!!」
気がついたら、義水は玄関から出て行ってしまっていた。なんで……。
焼きそばと共に置き去りにされた火織は、次に会ったらすべてはっきりさせてやろうと焼きそばに誓った。
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