第6話 高いマンションの美少女
「現代はそもそも携帯電話によって色々と縛られすぎじゃない?」
「俺は友達いないからそんなこと気にならないけど……。」
そんなことを話していたら、火織の家に着いた。
豪華なタワーマンションではないが、セキュリティのしっかりしたマンションであることはエントランスを入ったところでもすぐに分かる。
義水は間接照明と白を基調にしたシックな雰囲気のロビーが目に入ってくると、少し落ち着かなさそうにしていた。
その様子が横目で見えた火織は苦笑して鍵を開ける。
「誰かに私の家の場所、教えたりしちゃダメだからね。」
「分かった。気をつけるよ。」
たとえ誰かに知られても、セキュリティのしっかりしているこのマンションの中には簡単に入ってこられないようになっていた。
それでもあえてこんな事を言ったのは、念のためというよりも、彼との距離をはかるためでもある。
自分の中の猜疑心を感じると、火織は自嘲的な気持ちを覚えた。
そんな気持ちをごまかすように強くエレベーターのボタンを押す。
「いらっしゃい、どうぞ。」
「どうも、お邪魔します……。」
いよいよ身の置き場のなさそうな義水がおずおずと玄関に入ってきた。
脱いだ靴を揃えて靴の爪先をドア側へひっくり返している。
ぶっきらぼうな話し方からは想像しにくいが、彼は細かいところが丁寧で礼儀正しいと火織は思った。
「こちらが、我が家のメインキッチンとなっております。」
カウンターのあるキッチンの前で火織が手を広げる。
水を飲むのに使うくらいであろうシンクが少し濡れている以外は使用感が無い。
義水はその様子を見ると薄く笑って火織に言う。
「よし、じゃあやるか。」
「あ、ゴメン、着替えてくるから待ってて。」
「ですよね……。」
制服で料理をするヤツがどこにいるのか。
義水はリビングのソファを勧められ、居心地の悪い時間を少し過ごすことになった。
ソファは柔らかいが、やはり女の子の部屋だから落ち着かない。
気を紛らわせるためにも、待っている間にリュックサックから持ってきたものを取り出す。
「お待たせ、それは?」
「エプロンとサラダ油、塩、味噌、醤油、あとついでにウスターソースだ。」
小さい瓶に入った調味料たち。ちょこんとしていてかわいい。
「ふむふむ。」
「調味料なんか、無いんじゃないかと思ってね。料理、してないんだろ。」
「よく分かったね!」
「明るく言うところじゃないんだよなぁ……。」
キッチンを使ったことがないということは、料理に何が必要か分からないということ、それはすなわち必要なものがないという事だった。
あればあったでよし、無い場合に料理教室が中断する方が良くなかった。
物事を覚えるのに必要なのは集中だと義水は考えている。
あらかじめ使いそうなものが一通りあれば、その後のことは気にしなくてもよくなる。
「それにしても、私服も似合うな。」
少し膨らんだ袖をしたスカイブルーのブラウスに黒いスキニージーンズ。
女性らしいシルエットが強調されたコーディネートだ。
普通の体型だけではできない、そうスタイルに自信がなければチョイスできない服装。
義水は素直に感心した。服というのは自分をよく見せるというのもあるだろうけど、とても似合っている。
ある意味では生き方を表現する手段でもあるからだ。もっとも気が付かれやすい表現。
それを飾りすぎず、それでいてちゃんと自己表現として選べているのは羨ましいとも思える。
ただ、まぁ、袖は捲り上げてもらうか。
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