第5話 平成28年から来た高校生
午後の光線は、これから訪れるであろう初夏へと向けて強めの角度をもって窓際の机を焼いている。
じりじり。
ノートが燃え上がり、前髪が焦げましたあら大変。
そんな事はなく、午後の授業は進んでいく。これはATPの働きによるものです。
ちょっと入れ替えると怖い団体ですね。ハハハと生物教師が言う。
生物みんなを動かしている化合物がPTAでたまるもんか。
くだらない話を聞きながらノートを取りつつも火織は、今日から始まる新しい挑戦に、胸を高鳴らせずにはいられなかった。
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「火織、一緒に帰らない?駅前にできた新しいカフェに行こうよ。」
長い髪をツーテールにした少女、
同じ女性ながら大きな瞳、きれいな形のあご、容姿が整っていて魅力的だと感じる。
火織にとって少ない気を許せる友人だった。カバンを肩にかけながら、火織は優佳に応える。
「ゴメンね、今日はちょっと予定があるんだ!また誘ってね。」
「そか!わかった!」
優佳は笑顔で手を振ると教室を出ていった。火織も手をあげてこたえる。
少しだけ苦い気持ちがチリチリと指先を焼いた。
別に気後れする理由なんかないはずだけど、どこか後ろめたさがある。
「よし!」
気合いを入れ直す。
今日から私は変わる。何もできないお嬢様じゃない。
料理のできるスーパーお嬢様に進化するのだ。
スーパー……お嬢様……。
スーパーに行くから?
「何やってんだ?ほら、行くぞ。」
そんな、よしなしごとを考えていると義水に声をかけられた。
よく考えたら、教室で話しかけられるのは恥ずかしいかも。もう誰もいないけど、光一路に見られて誤解されたりしたら……。
しかし、いつの間にか教室を出ていってしまっていた義水を追って火織も教室を出た。
「私の家を鍛冶家くんは知らないでしょ。一人で行かないでよね。」
「とりあえず、昇降口までは決まったルートだろうし。」
とぼけた顔で義水がこたえる。
それもそうだが、今話さないといけないのはそれじゃなかった。
「あのさ、教室で話しかけられると、その。」
「あぁ……伏見に勘繰られるのが困るのか。」
義水が頬をポリポリと爪でかく。
なんだかかわいい仕草だ。
「連絡先、交換しとこ?そしたら大丈夫だから。」
「分かった。ほら、これだ。」
義水がスマホを出して差し出してきた。
少し前の機種。
でも、綺麗に使われている。よく見ると本体の端は塗装がハゲているけど、多分時間がそうさせたのだろう。
「電話番号……。チャットアプリは……?」
「ええと……。」
「明日までに入れといてよねっ。」
今どきチャットアプリ入れてない高校生がいるんだろうか。
私だって入れている。
正確には優佳が無理やり入れた気がするけど、今ではなくてはならない存在だ。
多分。
なんか時々意味不明なメッセージが優佳から送られてくるけどね。
「鳥が焼かれた。」
とか。お料理の話かな。
電話番号を登録するためにメッセージを送信。
パラン。
義水のスマートフォンがくすぐったそうに身震いする。
『よろしくね。』
今よろしくと送ったのは私、そのメッセージを見ているのも私だ。
変なの。
「インストールしたら教えるよ。」
スマートフォンを受け取りながら、義水は照れくさそうに応えた。
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