第7話 栄光のクッキング・アカデミー

「ありがとう!じゃあ、やろっか!」


賞賛を受け取るのも慣れてるんだよなあ。

そういうところもお嬢様だ。と義水は思う。


「じゃあ、やりますか。」


義水は立ち上がりながら、持ってきたエプロンをつけた。

デニム地のエプロンの端にそんなコピーが書いてある。酒造メーカーのエプロンだった。


「鍛冶家くん、お酒飲むの?『日本酒で乾杯』」


「飲むわけないだろ。ああ、このエプロン……生地がしっかりしてて使い勝手がいいから。」


「そうだよね!そういうのってどこで見つけるの?デパート?」


「あー、もう、いいから!料理の準備!!」


火織もエプロンをつけた。シンプルな薄い黄色のデザイン。引っ越したときに用意されたものだろう。

キッチンに二人で立つ。

普通の学校生活を送っていてもエプロン姿の火織は見る機会がない、これは貴重だ。だからと言って何かある訳ではないんだが……。


じゃあ、と改まって料理教室が始まった。

よろしくおねがいします、と言ってお互いに頭を下げる。


「ちまたでよく言われている『料理は科学だ』、というのは間違いなくそうなんだが、石動が今後、料理を勉強していくにあたって、常に行動と結果を繋げて考えるようにして欲しい。」


「それは、またなんでなのかな?」


「料理をする上で大切なのは想像力なんだ。そして想像力は経験が積み重なって広がる。」


「ふむふむ。」


「どういう手順を踏むとということがわかる。料理は、そんなことの積み重ねだ。まずは失敗と成功とを体感してもらいたい。」


「分かりました!とにかく挑戦するね!」


いい返事をして胸を張る火織。義水の表情はそう変わらないように見える。


「と言っても、今日は一番簡単な料理、すなわち目玉焼きだ。まずは自分なりのやり方で作ってみな。やったことあるだろ?」


義水の手からタマゴを渡された火織が少し焦った顔をする。


「め、目玉焼き……分かりました。」


さっきの威勢のいい返事とは打って変わって小さくなる声。

火織はフライパンを出し、コンロに置く、火をつけて……。

手元がすこしおぼつかない。

キッチンでの作業になれていないから、であるのは間違いない。


「わっ!火がついた。」


当たり前だろ……つかないと困る。

しかし、義水はつとめて表情を出さないように気をつけた。

挑戦をしている様子に先生役の義水が一喜一憂すれば、そうすれば火織の気持ちを揺さぶってしまう。気持ちが揺れればミスが出て失敗につながっていく。

失敗も学びのひとつだが、失敗をわざとさせたいわけじゃない。


「ええと、ああ!!」


フライパンにたまごを割り入れようとした火織は、フライパンの上でタマゴを潰してしまった。

カシャ、と音がして黄身の潰れたタマゴがフライパンの上で焼かれて行く。


「あ、あ、あぁ……。」


みるみる固くなるタマゴ。

目玉焼きならぬ涙目焼きが出来上がった。

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