【09】事件―その後

新藤保しんどうたもつゆう親子は、天宮於兎子てんきゅうおとこが手配した救急車で、〇山市内の病院に搬送された。

そして保は医師によって死亡が確認され、優は外傷こそなかったが意識朦朧とした状態が続いたため、そのまま入院することになった。


鏡堂達哉きょうどうたつやは、新藤の死亡を知って病院に駆け付けた高階邦正たかしなくにまさ刑事部長に、事件の顛末に付いて詳細に報告する。

その報告を聞いた高階は、口元を厳しく結んで考え込んだ。


暫くして鏡堂と天宮に顔を向けた高階は、厳しい表情で彼らに命令する。

「分かっていると思うが、今回の件、特に新藤課長が犯人である件は、俺の指示があるまで誰にも言うな。

熊本班長にもだ」

その命令に、二人は無言で頷いた。


「今回の事件は、これまでのように曖昧なままでは終われないだろう。

一般人や中学生に加えて、警察の幹部が二人も死亡している。


俺としても本部長を始めとする上層部に、事実を報告せざるを得ないが、恐らく上から過去の事件も含めた詳細な説明を求められるだろう。


特に天宮、お前の<能力>については、上の注目を浴びるだろう。

場合によっては、何らかの措置が採られるかも知れん」


「それは私が、警察にいられなくなるということでしょうか?」

そう言って天宮は眼を潤ませた。


「そうなるとは限らんが、何しろ前代未聞の事態だ。

俺にも予想はつかん。

鏡堂。

天宮が上から事実確認される時には、極力お前を同席させるように根回ししておくから、サポートに回れ」


その指示に鏡堂は大きく頷いた。

それを確認した高階は、立ち上がって鏡堂に問いかける。


「新藤課長は、最後に何かいっていなかったか?」

「息子の優君を頼むと」

その短い答えを聞いた高階は、何か言いかけたが、結局無言で去って行った。


翌日入院中の新藤優を見舞った鏡堂と天宮は、彼が比較的元気そうにしているのを見て、胸を撫でおろす。

優はベッドに横にならず、腰掛けてぼんやりとしていたが、鏡堂たちが病室を覗くと、笑顔を向けてきた。

かなり落ち着いた様子だ。


病室には新藤保の弟夫婦が来ていた。

今後優は彼らの元で暮らすことになると聞いた鏡堂は、自分に出来ることは何でもすると申し出る。

すると新藤の弟夫婦は、揃って丁寧に礼を述べた。

その様子を見る限り、穏やかそうな雰囲気の人たちだったので、鏡堂は少し安心した。


彼らが席を外した後、鏡堂と天宮は優にその後の様子を訊いた。

どうやら<蓐収じょくしゅう>の力は落ち着いているらしく、体調や気分が悪くなるようなことはなさそうだった。


「最初の時と違って、今は父さんが僕の中で、力を押さえてくれている気がするんです」

そう言って寂し気に笑う彼を見て、鏡堂は胸が締め付けられる思いだった。


その時天宮が、バッグの中から小さな物を取り出し、優に手渡した。

それは六壬桜子りくじんさくらこが持っていた、あの銅鐸だった。


銅鐸を手に取った優は、

「これ、どこにあったんですか?」

と彼女に尋く。


「六壬さんが拾って、持っていてくれたの。

でもこれは、あなたが持っていた方がいいだろうって、言伝かったのよ」

その言葉に小さく頷いた優に、鏡堂が尋ねた。

「君はそれを、どこで手に入れたんだい?」


「〇郷町にいた時に、偶然見つけたんです。

道の脇にある岩に、これが貼り付いていたんですよ。


何だろうと思って近づいたら、これがポロっと落ちて。

どうしようかなと思ったんですけど、何となく不思議な感じがしたんで、持って帰ったんです。


あの日横山君と一緒に出掛けた時に、僕がこれを腰にぶら下げているのに気づいて、見せて欲しいって言ったんですよ。

だから外して横山君に手渡したら、『パン』ていう音がして、横山君が倒れたんです」


その時のことを思い出したのか、優は少し身震いした。

その様子を見た鏡堂はしみじみと思う。

――偶然手に入れたこんな物のせいで、新藤さんは道を踏み外してしまったのか。


彼は尊敬していた上司の末路と、その息子の将来を思い、いたたまれない思いに包まれるのだった。

そしてその思いを他所に、この地を更なる脅威が襲うことを、鏡堂も天宮も、まだ気づいてはいなかったのだ。

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せいていのさー鏡堂達哉怪異事件簿その五 六散人 @ROKUSANJIN

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