本作はとにかく、ゾクっとする小説でした。『不穏』という言葉を強く感じさせられることになります。
ホラーの味わいとして、『不穏さ』というのはとても重要な要素であると言えます。
「不可解な何かを発見し、『この裏には何があったんだろう?』と想像させられる。そして、明らかに『怖い何か』が潜んでいたに違いないと漠然とだが確信させられる。
そんな『不穏さ』を描くのが、この作品はものすごく上手いのです。
本作では『選挙ポスターの掲示版』に、なぜか行方不明者の貼り紙が何回も貼られる、という謎が発生します。
この作品では、その謎について事実を見て行くことで、自然と『不穏な何か』の存在を感じさせられます。
直接的な説明や描写ではなく、あくまでも読者に『想像』をさせる。その手法がとても巧みで、読み終わる頃には完全に作中に用意されていた『不穏』の気配を強く感じさせられることになります。
この世の中にはまだまだ把握しきれないほどの闇がある。ホラーモキュメンタリーに通ずる濃厚な『不穏さ』の感じられる本作。オードブルのように手軽につまめる長さでもありますので、是非とも一度手に取ってみていただきたいです。