女勇者は振り向かない

　かつて世界は幾度もの大戦により大いに傷付き、栄光の魔法都市は没落し、統一王朝は粉々に砕け散り数多の小国へ別れて久しい。全ては北に勃興した魔の国が原因であった。
　人々は定期的に南下し破壊と略奪の限りを尽くす魔の国を、エルシオンと呼び恐れた。
　あらゆる悪と腐敗の根源であり、正しき秩序を破壊するもの。そこに君臨する魔王オディオを恐れ、怒り、戦いを挑んだ数多の勇士が居たが、誰一人として帰る事は無かった。

　ところがだ。
　この二百年余り、魔王軍の南下が絶えて久しく、次第に人類は国同士の戦乱が続く様になってしまった。
　北の防人は形骸化し、砦は崩れ、最早彼らの剣は錆びついた。

　これは、魔王軍最後の南征にまつわる過去の物語である。

　その拳は天を割り、その蹴りは大地を砕くと謳われた女勇者の…続きを読む