いやあ、おったまげた……。
何が起きたのか今も呆然としてます。
物語は、ご両親が忙しいご家庭の女の子が夏祭りに一人で行くところで、
『綺麗なお兄さん』なる方と会うところから始まります。
そのお兄さんと明日も会いたい。でもそれは叶わないようで、
また夏祭りの時期になったら会えるのだそうです。
そうこうして、その子と、歳の取らない綺麗なお兄さんは、一年に一回、夏祭りの日だけ会うことができるようになりました。
まるで織姫と彦星やね。ロマンチックじゃないの。
そう……思ってたのですがー……
これは多分、私は、騙されたのでしょうね。この物語に。
なんだか、絶対勝ちだと思ってたオセロに、まさかの負けを食らった感じに近いんかな。
真っ白だった盤面が、一発で真っ黒になったというか……
いやいや……こんなんわかりませんて!
あえて、大どんでん返しと言わせていただきます。
同じ経験をされたい方は、是非、ご一読を。
遠部右喬さんの最新作です。右喬さんらしい、幻想的なラブロマンスですね。ホラーのタグが貼ってありますが、ホラー色は薄めです。
夏祭りのお囃子に惹かれて、親に内緒でお祭りを見に行ってしまった「私」が迷子になり、神社の奥で出会ったのは、浴衣姿の美青年でした。
それから毎年、夏祭りには会いにいくのですが、お兄さんは全く変わらない。
果たして彼は、人なのか、魔なのか。善なのか悪なのか?
ラストは優しい彼の気持ちをちょっとだけ逆手に取ったどんでん返し。
女の子は成長するとこうなるのかあ、と感慨の残る、不思議な読後感でした。
恋愛ミステリー好きの方は是非どうぞ!
一年に一度の夏祭り。
その一日のうちのほんのひと時。
その時にだけ会える〝お兄さん〟を慕う少女。
彼女の行く末を描く物語です。
〝……来年のお祭りに。もしも君が忘れてなかったら〟
〝忘れません〟
お兄さんとの不思議な約束は重なり、思いは募ります。
名前は最も短い呪いだと言います。
唱えれば心を動かす。
それはとめどなく繰り返し縛りつける。
〝お兄さん〟と心で呟き続けてた少女は、その思い一途に自らの心を縛りつけたのでしょうか。
果たして。
少女は何を捨てて、何を得たのか。
誰が誰を得たのか。
凄まじさと、密やかな狂気をはらむ思いを
物語は静かに書き出します。
終わりゆく夏に、一心の恋と想いの怖さを描く恋物語。必見です。
一人で夏祭りに出かけ、迷子になったその日、「私」はお兄さんと出会った。その時間は楽しく、愛おしい。別れ際にお兄さんは言う。「もしも君が忘れなければ、来年も会おう」。
来年も、次の年も、その次も。「私」はお兄さんと会う。しかし、それ以外の日々はイジメに遭い、父と死別し、虐待され、冤罪を受けた。病床に伏し、死を待つ。
そんな中、死の床に現れたお兄さんが「私」に告げた彼の名前とは――。
夏祭りの日、ただ一日だけ会える愛しい人。そして、「私」に降りかかる数々の災厄。そんな日々を乗り越える少女の思いとは。
それらは切なくも甘い筆致により、夏祭りの刹那の恋心として、けれど永遠に続く愛の物語として紡がれる。時の流れを一夏の恋に繋ぎとめる恋愛青春ホラーの佳作。
彼女の夏と夏祭りは、ある意味ずっと終わらずに続いていたんだろうな、と。
わたしたちは祭りと祝日が終われば日常に戻り、夏が終われば次の季節に赴く。
だけど彼女は、特別な約束の楔が打ち込まれたいそこへいつでも戻っていくことができた。
なにかが離れるような、置いてきぼりを食らったような夏の終わりの物悲しさを、彼女だけは感じずにいられたんじゃないかと、そんな風に感じた物語でした。
それにしても、自ら望む恋模様を描くためとはいえ、呼ばずにいられたのは凄いなあ。
わたしは、楽しみにしていたアイスを食べられただけで絶望するので、何十回迎えに来てもらっても足りない……誰も迎えに来ないけどっっ。
幼い頃の夏祭りの記憶から始まる、切なくも温かい前半。主人公と謎めいたお兄さんの関係性は、一度触れたら忘れられないほど繊細に描かれており、時間の経過とともに深まる絆が胸を打ちます。
日常のささやかな風景と、少しだけ非日常的な空気感が絶妙に交わり、読者は物語の世界に自然と引き込まれます。
孤独、約束と成長を静かに感じられる作品で、読み終えた後も心に驚愕と余韻が残り甘い毒を飲んで微睡むような気持ちになります。
大切な人との記憶や時間は支えにもなり、蔓草のように絡まる執着にもなる……。
しかし、愛とはこれが理想な気がする。
片方だけでは成り立たないもの。
人間と怪異。その交流具合がなんと言っても美しくて切ない。
主人公はある夏の日に、神社で「お兄さん」と会う。優しいお兄さんと会い、迷子なのかと心配されて外まで送って行かれる。
一年後、借りたハンカチを返すためにもう一度神社にて「お兄さん」と会う。
彼のことを好きだと思うけれど、彼と会うことができるのは毎年の夏祭りの時だけ。
何年経っても、彼女にとっては「お兄さん」が一番大切に思える相手となっている。年を追うごとに彼女の日常は変化していき、学校ではクラスの支配者的存在に目を付けられ、孤独を余儀なくされることにも。
彼の正体は一体なんなのか。明らかに「人ではない何か」であることはわかる。
優しい性格をしていて、人間に害をなしそうにはない。けれど、「怪異」であるならば、関わることで彼女の身に変化は起こらないのか。
そうして読み進める中で、ラストで「なるほど」と色々なことが繋がりました。
彼女の身に起こった本当の「影響」。怪異である「彼」の正体が何で、彼と関わることで何が起こっていたか。
それまで何気なく受け入れていた事実が、ラストで一気に「別の意味」を持って理解されていく。それが大きなカタルシスをもたらしてくれました。
孤独な少女。同じく、孤独な怪異。
その出会いは傍から見たら「良くないこと」と思われるかもしれないけれど、彼女にとっては世間的な幸福や不幸なんてどうでもいい。
ただ、「お兄さん」と一緒にいたい。そんな気持ちを抱き続ける彼女の心がとても切なく、心に沁み渡ってきました。
夏の静けさを強く感じさせる、しっとりとした感興に満ちた物語でした。